不整脈

 心臓は、規則正しく収縮と拡張を繰り返して、血液を全身に送り出して行きます。心臓のリズムをとる指揮者の働きをしているのが、右心房の中にある洞結節です。洞結節からの刺激により、心房が収縮し、全身から帰ってきた血液を、心室に渡します。心室の収縮は、洞結節の連絡を受け取った房室結節から出た指示により行われます。不整脈には、様々な種類がありますが、大きく分けると、房室結節より前の段階で起こる上室性の不整脈と、房室結節より後の段階で起こる心室性不整脈に分けることができます。(いずれも動悸として感じます。)

◎上室性不整脈
 上室性不整脈で最も多いのは、上室性期外収縮です。これは洞結節以外の心房からの刺激で通常より早いタイミングでおこる心房の収縮です。一般に治療を必要としません。
 上室性不整脈の中で治療を要するのが、心房細動です。心房細動は、心房の様々な部分から興奮が起こるため、心房が収縮と拡張というシステマチックな動きを行えず、血液を送り出す力を出せない状態です。心室の拡張による陰圧により、心房から心室への血流は保たれますが、その能力は3割程度低下すると言われています。心房細動で最も困ることは、心房内での血液の流れがスムーズでないため心房内に血のかたまりである血栓ができてしまうことです。その血栓がはがれて血流に乗って体の様々な部位に運ばれていくと塞栓症を起こします。例えば脳に飛んでいくと脳塞栓症を起こし、大変重篤な状態になります。心房細動が続く場合は、血栓塞栓症を防ぐために、抗凝固療法を行います。通常ワーファリンという薬剤を使用します。この薬剤は、適量の調節が難しいため、数週間に一度以上の採血を行い、PTという検査を見ながら、服用量の調整をします。頻脈に対しては、薬剤にて心拍数の減少を図ります。可能であれば、心房細動そのものを直して通常の洞調律にしたいのですが、これまでの臨床研究では薬剤で洞調律に戻してもあまり予後の改善はないようです。(このあたりの優劣の判定に関しては、今後のさらなる研究が必要です。)最近の心房細動の病態についての研究から、不整なリズムの発生源が、肺静脈内にあることがわかってきました。発生源から心房に刺激が行かないように、心房と肺静脈の間の刺激の伝達を断ち切るアブレーションという方法が行われだし、心房細動の発生予防が可能になってきました。

◎心室性不整脈
 心室性不整脈は、一般に上室性不整脈より重篤と考えられていますが、必ずしも治療が必要と言うわけではありません。特に、一カ所のみから出ている不整脈に関しては、特殊な場合を除いて、治療の必要はないと考えられ、抗不整脈剤等による治療を行わずに経過を見ることが大部分です。しかし、慎重な対応が必要なものもあります。Brugada症候群、不整脈源性右室心筋症、遺伝性QT延長症候群、R on Tなどと呼ばれる特殊な疾患や病態は、心室細動等の重篤な不整脈を招くことがあります。


◎不整脈の検査
 不整脈は、脈をとったり心音を聞いたりすることで、わかりますがどのような不整脈かということを判断するためには、検査が必要です。最も重要な検査は、心電図です。心臓は、電気的な刺激により、リズムをとったり、心筋細胞の収縮を行っていますので、その電気活動を見ることにより、不整脈を調べることができます。もっともよく行われる心電図検査は、12誘導心電図という検査です。これは、四肢と胸部の6カ所(計10カ所)に電極をつけて、電位差の変化を記録するものです。四肢の電極では他肢との電位差も記録するので、計12カ所の記録となるため、12誘導心電図と名付けられています。この心電図は、不整脈を解析するだけでなく、冠状動脈の循環の善し悪しも知ることができ、大変有用な検査です。不整脈は、必ずしもいつも出ているわけではありません。特定の時間だけ、あるいは特定の条件の時のみ出現することがしばしばあります。診療所で行われる通常の12誘導心電図だけでは、不整脈を記録できないこともめらしくありません。そこで、いくつかの工夫がなされます。一つは、負荷心電図という検査です。不整脈の中には、体に負担をかけているとき、言い換えれば心臓に負担をかけているときに出現しやすい不整脈が多くあります。そこで、検査室内で、階段の上り下りをしたり、歩行をしてもらって心電図をとるという検査をおこなうと、安静時の心電図では見つけることができなかった不整脈を記録することができます。異常を見つけやすくするもう一つの方法は、長時間心電図をとり、異常が出るのを待つ方法です。 この目的のために作られたのが、ホルター心電図という24時間心電図をとれる機械です。このホルター心電図の大きさはウオークマンほどで、携帯可能であり、仕事、スポーツ等は普段通りできます。ただし、機械は水に濡れると故障しますので、入浴と水泳は出来ません。24時間心電図をとれますから、一日の様々な状況下での心臓の様子を知ることが出来ます。階段昇降時、食事の時、排便時、飲酒時、睡眠時等・・・・・。これらの間に不整脈がおこれば、その種類、頻度等を知ることができます。
 上記のように、様々な方法で心電図をとり、不整脈を調べます。また、不整脈の原因として、種々の心疾患や、電解質異常、ホルモン異常などが存在することがあり、超音波検査や血液検査も行ってみるのがよいでしょう。

◎不整脈の治療
 不整脈の中には、治療を必要としないものと、必要とするものがあります。治療を行う場合、多くは抗不整脈剤という薬剤を服用します。最近は、心臓そのものを治療するということで、レニン・アンジオテンシン・アルドステロンという内分泌系を抑制する治療を行うこともあります。
 命に関わるような重篤な不整脈を起こす可能性のある疾患に対し、ICDという装置を使うことがあります。これは、心室細動のような重篤な不整脈が発生した場合、体にあらかじめ埋め込んである装置が作動し、電気を流して正常な心電図に戻すものです。作動時の、身体的及び精神的ショックはありますが、救命という意味で極めて有用な装置です。
 心室細動が起こった場合、数分以内の治療が必要とされ、通常の生活中に起こった場合、医療機関は間に合いません。そこで、AEDと呼ばれる一般市民が使える除細動器が普及してきました。一般の方でも使えるよう、音声でわかりやすく使用法を誘導してくれます。


京都市中京区 内科皮膚科 西村医院

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