慢性腎臓病(CKD)について


慢性腎臓病(CKD)とは
  CKD(chronic kidny disease)は、慢性に経過する腎機能障害のことです。病名というより、病態を示すと言った方がよいかもしれません。。腎臓は、血液を漉して尿を作り、体にたまった老廃物を体外に出す働きをしています。腎臓の働きが極端に悪くなると、尿として老廃物を出せなくなり、透析によってその働きを補わねばなりません。透析の原因疾患には、糖尿病、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、のう胞腎等がありますが、この中でも糖尿病による腎症は最も多く、更に増え続ける傾向にあります。透析に至ると、体の抵抗力が低下し、生活に様々な制限が加わります。また、医療費という意味でも負担が大きく、患者個人だけでなく、社会全体の医療費高騰を招きます。CKDという概念が提唱されたのは、患者及び医療者が早めに腎機能障害を認識し、早期に治療を始めることにより、腎不全や透析に至ることを防ごうという考えに基づきます。また、腎機能の低下は、心血管疾患とも関連あり、これらによる予後の悪化も防ごうという意図もあります。


腎臓の機能の指標
 腎臓の働き具合を見る上で基準となる数値は、糸球体濾過量(GFR)という数値です。これは、1分あたりの時間にどれだけの血液を濾過して尿を作れるかという数値です。実際に測定するのは大変なことですが、臨床ではクレチニン(Cr)という物質に着目し、その血液中と尿中の値、尿量よりクレアチニンクリアランス(CCr)という数値を計算で求め、GFRを予測します。クレアチニンは、糸球体で濾過されるだけでなく、尿細管でも分泌されますので、後述のイヌリンによる実測GFRより30%ほど高値となります。そのため、GFRをCCrより予測するときは、0.715の係数補正を行います。

血清クレアチニンのみでCCrを求めようという試みでかんがえられたのが、Cockcroft-Gault(CG)のCCr推算式です。
これは単位体重あたりのCr排泄量を以下の式で推測し、それに基づいてCCrを計算するものです。
Cr排泄量(mg/kg)=28−0.22×年齢
男性: CCr(ml/min)=(140−年齢)×体重/(72×血清Cr)
女性: CCr(ml/min)=(140−年齢)×体重/(72×血清Cr)×0.85
これらの式で求めたCCrは、実測GFRより高めに出ます。


より正確にGFRを推定しようと言うことで、CKD診療ガイド2012では、以下の式で推定GFRを求めることに決めました。(eGFRと呼びます)
男性: eGFRcreat(ml/min/1.73m2)=194×血清Cr-1.094×年齢-0.287
女性: eGFRcreat(ml/min/1.73m2)=194×血清Cr-1.094×年齢-0.287×0.739

最近、血清シスタチンCが、新しい腎機能を求める検査として注目されています。シスタチンCは,13kDの低分子蛋白であり、糸球体で濾過され、近位尿細管で再吸収・分解されます。
血清シスタチンCは、血清クレアチニンと同様に腎機能が低下すると上昇しますが、シスタチンCは、クレアチニンと異なり、筋肉量の影響を受けないことが特徴です。
シスタチンCでもeGFRを求めることができます。
男性: eGFRcys(ml/min/1.73m2)=104×血清Cysc-C-1.019×0.996年齢)−8
女性: eGFRcys(ml/min/1.73m2)=104×血清Cysc-C-1.019×0.996年齢×0.929)−8
ただし、血清シスタチンCは、腎機能が高度に悪化しても5mg/l程度で頭打ちとなりますので、シスタチンCによる腎機能の判断は、正常から中等度腎機能低下の範囲で使用するのがよいでしょう。また、甲状腺機能亢進症では、血清クレアチニンは低下しますが、血清シスタチンCは増加します。

eGFRは、体表面積1.73m2で標準化しています。これは、ほぼ身長170cm、体重63Kgの体格に相当します。
体表面積m2(BSA)=(体重kg)0.425×(身長cm)0.7250×0.007184の式で求めることができます。

上記eGFRにBSAを掛け合わせると、個々のGFRを算出できます。

上記の腎機能評価の方法は、一般臨床でよく使用されますが、最も正確に腎機能(糸球体濾過量)を測定する方法は、イヌリンクリアランスです。イヌリンは、キク科植物の球根に含まれる多糖類でフルクトースが直鎖状に結合したものです。イヌリンは糸球体で濾過され、尿細管で代謝を受けず、再吸収も分泌も行われないため、イヌリンの腎クリアランスは、糸球体濾過量に一致します。イヌリンクリアランスを測定するには、1%イヌリンを含む生理食塩水を持続静注し、30分間隔で3回腎クリアランスを測定します。その際、蓄尿の中間点で採血を行います。1時間蓄尿し、その前後で採血を行う簡便法もあります。いずれにせよやや煩雑ですので、一般診療では、通常は行われません。なお、尿に排泄されたイヌリンの測定は、イヌリンナーゼにより分解産生されたフルクトースの定量により行われますので、イヌリンクリアランス測定時にはフルクトースを含んでいる果物や清涼飲料水の摂取は控えましょう。


CKDの定義
 CKDは、次の(1)もしくは(2)にのいずれかを満たすときと定義されます。
(1)尿異常、画像診断、血液、病理検査等で、腎障害の存在が明らか。
  特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要
(2)GFR<60ml/min/1.73m2
(1)(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続する。

一般の方には、わかりにくい表現ですが、何らかの検査で腎臓に異常を認めたらCKDと考えていただいてよいでしょう。非常に幅の広い疾患概念ですので、ちょっとした異常でもひっかっかてしまいますが、重症になる人をできるだけ早く見つけて治療し、予後を改善しようという意図に基づいています。



参考文献
CKD診療ガイド2012
日本内科学会誌第101巻第5号 堀尾勝の文献




京都市中京区 内科皮膚科 西村医院

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