虚血性心疾患

 心臓の表面には、心筋に酸素や栄養を運ぶ血管があり、冠状動脈と名付けられています。心臓は、安静時には一分間に5L程度の血液を送り出しますが、運動時には骨格筋が多くの酸素を必要とするため、心拍出量を数倍に増加させます。その際、心筋自体も多く働くために、酸素をより必要とし、冠状動脈に多量の血液を流す必要があります。

 血管が動脈硬化を起こすと、血管の内腔が狭くなり、血の流れが悪くなります。動脈硬化とは、コレステロールが血管の壁にたまり、動脈壁を肥厚させる状態です。動脈硬化による冠状動脈の狭小化が軽度の場合は、安静時には症状がありませんが、運動した際は、心筋が必要な酸素を運ぶたけの血流増加を起こすことができず、心筋は酸欠状態になります。このようなとき、胸の痛み、胸が圧迫される感じ、狭心症と言われる病気になります。労作によって起こることから、労作性狭心症とも呼ばれます。どの程度の運動によって、胸部圧迫感を感じるかは、狭窄の程度に依存し、狭窄の度合いが強いと、軽い運動でも起こるようになります。狭心症の中には、冠状動脈の攣縮によっておこるものもあり、異型狭心症と呼ばれ、睡眠時に起こることが多い病態です。

 血管の内側は、内皮細胞という細胞で覆われ、血液が固まって血管をふさいでしまうことを防いでいます(抗凝固作用と言います)。ところが、動脈硬化を起こした動脈壁の病巣が時に内皮細胞を壊して、血管腔内に出てしまうことがあります。脱出した病巣には、抗凝固作用がないので、血管の中に血のかたまりができてしまい、血管をふさいでしまいます。こうなると、一部の心筋細胞は、酸素を全く受け取ることができず、死んでしまいます。この病態を心筋梗塞といい、大変重篤な状態です。心臓が十分収縮できず血液を十分に送り出せない心不全になったり、不整脈が起こったりして、命に関わる状態にもなります。心臓の壁が破れるということも時に起こります。

 虚血性心疾患の診断で、最も役に立つ身近な医療機器が、心電図です。心電図は、心臓の電気的な変化を記録します。心臓が虚血に陥ると、心臓の電気的機能に異常を来し、心筋細胞の興奮(脱分極)からの回復時(再分極)時の状態を示すSTやT波と呼ばれる部分に変化が見られる様になります。さらに進んで心筋梗塞になりますと、QRS波という脱分極時の波形に変化が見られるようになります。心電図を見ると、心臓のどの部分がどの程度の大きさで心筋梗塞を起こしているかがおおよそわかります。また、発症からの時間も推定できます。

 虚血性心疾患の検査と治療に循環器専門病院で大きな威力を発揮するのが、心臓カテーテルです。手首や大腿の動脈からカテーテルという細い管を血管の中に入れ、冠状動脈まで持って行き、造影剤というX線を通さない薬剤を注入することにより、冠状動脈の状態をX線撮影する検査です。冠状動脈の狭くなっているところや細くなっているところを最も正確に知ることができる検査です。更に、狭くなっている血管を風船を入れて拡張したり、ステントと言われるメッシュ状の金属を入れて、血管腔を広げたりすることもできます。最近は、ステントも進歩し、再閉塞を防ぐ薬剤をステントに入れたものも出てきました。心筋梗塞時には、様々なデバイス(器具)を使って、閉塞した血管を再開通させることもできます。これらの操作により、狭心症を予防したり、心筋梗塞の病巣を最小限に抑えることが可能になります。できるだけ、患者さんに侵襲や苦痛を与えずに検査をするという目的で、高速で撮影できるCTスキャンが開発され、カテーテルを使わずに、冠状動脈が狭窄している部分を見つけることも可能になってきました。

 外科的治療は、バイパス術と言って、狭窄より遠位部分に他の血管をつないで血を流してやることをします。外科的治療は、いかに患者さんに負担をかけないで手術をするかに向けられており、人工心肺を使わずに、バイパス術を行うことも珍しくありません。


京都市中京区 内科皮膚科 西村医院
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