長く続く咳について
 しばしば、咳が長く出続けることがあります。原因は様々ですが、感染症によるものと、それ以外の原因によるのもがあります。持続期間の長さにより分類され、3週間以内のものを急性咳嗽、3週間以上8週間以内を遷延性咳嗽、8週以上を慢性咳嗽と呼びます。


◎感染症による咳嗽

◆百日咳
 百日咳はもともと乳児や幼児の疾患ですが、最近は大人の百日咳が増えています。百日咳ワクチンの効果は10年あまりしか続かず、また接種が一時期副作用問題で途絶えたこともあり、流行の原因となっているようです。大人の百日咳は、軽度の発熱にとどまり、咳が強い割に全身状態がよいのが特徴です。診断は、血清の抗体価を測定することにより行いますが、判断基準が確定しておらず、診断に悩むこともしばしばあります。百日咳菌は、抗生物質により排除することは可能ですが、菌が産生した毒素は長く止まるため、有効な抗生物質を使っても、咳はすぐにはおさまりません。鎮咳剤の効果は限られており、咳で眠れない夜が続くことがしばしばです。なお、他者への感染の可能性は、抗生物質を投与しない場合3週間程度ありますが、投与すると1週間程度に短縮します。
◆マイコプラズマ肺炎
 
若い人に多い、咳の強い肺炎です。一般に高熱となり、時に肝機能障害や髄膜炎を伴います。喀痰はほとんどありません。血液の抗体価や胸部レントゲン写真で診断します。マクロライドという種類の薬剤を通常使用しますが、最近は耐性菌も珍しくなく、その時はミノマイシン等の薬剤に変更します。
◆クラミジア肺炎
 
高齢者に多い疾患です。クラミジアは細菌より原始的な単細胞の生物です。マイコプラズマ肺炎と症状は似ていますが、やや軽症です。ただし、類縁疾患のオウム病は、しばしば重篤になります。治療には、主にマクロライドを使用します。
◆結核
 
以前より頻度は減りましたが、忘れてはいけない疾患です。上記の感染症より進行が遅く、発病時期も曖昧です。発病すると自然治癒は少なく、多剤併用による長期の強力な治療が必要です。喀痰培養にて結核菌を分離することが決め手ですが、核酸検査や、クォンティフェロンといった補助的な検査も有用です。現在は、ツベルクリン反応は、診断的価値が低いと言われています。
◆感染後咳嗽
 
感冒を含めた様々な呼吸器感染症のあと、長く咳嗽が続く状態を言います。上記の、百日咳、マイコプラズマ、クラミジアによる長く続く咳嗽も、感染後咳嗽に含めることもあります。


◎感染症によらない咳嗽

◆気管支喘息
 
気管支の炎症により、気管支平滑筋が収縮しやすくなり、咳嗽と呼吸困難を引き起こします。治療の基本は、気管支の炎症を抑えることであり、ステロイドの吸入が中心となります。発作を抑えるには気管支拡張剤を使用します。その他、ロイコトリエン受容体拮抗剤、テオフィリン製剤などが使用され、投与方法も、経口、吸入、経皮と様々なものが存在します。
◆咳喘息
 
喀痰をほとんど伴わない咳が続きます。気管支喘息と同様に、気管支平滑筋の収縮が関与しますが、その程度が軽いため、呼吸困難には至りません。将来、30%の方が、気管支喘息に移行します。治療には気管支拡張剤が奏効します。気管支喘息に準じた治療を長期に行うことが必要です。
◆アトピー咳嗽
 
咳喘息と症状は似ていますが、気管支拡張剤が無効な点が異なります。中枢気道の好酸球性炎症と咳感受性亢進が原因です。治療には、抗ヒスタミン剤やステロイドを使用します。将来気管支喘息に移行することはありません。
◆後鼻漏症候群
 
痰を伴う咳が出ます。鼻腔や副鼻腔に炎症が起こり、炎症産物が鼻腔の奥に入り、咽頭から喉頭にに流れ込むと、慢性の咳嗽の原因となります。通常、マクロライドと言われる抗炎症作用をもった抗生物質を治療に使います。
◆胃食道逆流
 
胃の中にある胃酸が食道から咽頭に逆流し、それが刺激となって咳が続く状況です。胃酸の産生を押さえる、プロトンポンプ阻害剤や、H2ブロッカーを使用します。
◆肺癌
 
喫煙習慣のある高齢者が、血痰を伴う咳が続くときに最も疑いますが、全く無症状で健診の胸部レントゲン写真で見つかることもあります。肺癌には、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌等があり、発生場所、症状、進展様式、進行速度、治療法が異なります。
◆慢性気管支炎
 
痰および咳がほとんど毎日連続して3か月間以上持続し、これが2年以上にわたってみられます。喫煙習慣と強い関係があります。
◆薬剤性咳嗽
 降圧剤のACE阻害剤を服用すると、しばしば咳が続きます。気管支拡張剤や鎮咳剤は、無効です。



京都市中京区 内科皮膚科 西村医院