脳血管障害について

 脳血管障害は、脳の血管が破れたり詰まったりすることによっておこる脳の病気です。その中で、急激に起こる病気を脳卒中とも呼びます。日本では、脳血管障害の中で脳出血が圧倒的に多い時期もありましたが、1970年代半ばごろを境に脳の血管が詰まる脳梗塞の方が多くなり、現在では、脳梗塞の患者数は脳出血の患者数の数倍となっています。脳血管障害は、様々な疾患や病態を含みます。以下に、代表的なものを示します。

高血圧性脳出血
  脳出血の80%を占める疾患です。その内、被殻出血が半分近くを占め、視床出血は20%弱、小脳、橋、皮質下の出血はそれぞれ10%弱の頻度です。一般に、日中の生活時に多く発症し、頭痛、嘔吐等の脳圧亢進症状を示します。被殻出血では片麻痺が、視床出血では対側の知覚障害が、小脳出血ではめまいが、皮質下出血では運動麻痺や痙攣がおこります。橋出血は最も重篤になりやすく、意識障害や四肢麻痺がしばしば起こります。薬剤により、降圧や脳圧低下をはかる治療を行いますが、被殻出血、皮質下出血、小脳出血では手術治療をおこなうこともあります。

くも膜下出血
  大部分が脳動脈瘤の破裂によりおこります。動脈瘤とは血管の壁が薄くなってのう状に外側にふくれたものであり、通常血管の分岐部におこります。くも膜下出血は、一般にCTスキャンにて診断しますが、脳脊髄液を採取して濁り具合から診断することもあります。いったん出血が止まっても後に再出血することが多く、そのときは予後が非常に悪くなります。出血後に、血管がれん縮を起こすことがしばしばあり、脳梗塞を招くため大きな問題となっています。近年、脳ドック等により破裂前に動脈瘤が見つかることが多く、くも膜下出血を防ぐために、開頭クリッピング術やカテーテルを使ったコイル塞栓術を行うことがあります。大きな動脈瘤は、これらの手術が勧められますが、中等度の大きさの動脈瘤の場合、破裂の危険性と手術の合併症とのおりあいをつけるのがむつかしく、医師も患者も悩むことになります。

アテローム血栓性脳梗塞
  脳の主幹動脈が動脈硬化を起こして詰まったり、動脈硬化部にできた血栓がはがれて末梢に流れていき、細い血管を詰まらせる病態です。一般に安静時の発症が多く、起床時に麻痺で気がつくということも珍しくありません。閉塞した中心部は壊死に陥り不可逆性のダメージを受けますが、健常部との間の領域はペナンブラと言って、治療により回復する見込みのある領域です。近年血栓溶解療法が発達し、発症3時間以内に薬剤にて詰まった血栓を溶かすと、ペナンブラ領域の脳を救うことができ、脳梗塞のダメージを小さくすることが可能になりました。脳出血か脳梗塞か、ペナンブラ領域があるかどうかはCTスキャンやMRI を使って調べます。

脳塞栓症
  心房細動という心房がほとんど動かない不整脈があると、心房内の血流が遅くなり、血液が固まって血栓ができます。この血栓がはがれて流れていき、脳の血管を詰まらせると脳塞栓症となります。一般に大きな血栓が大きな血管を詰まらせることが多く、脳が大きなダメージを受けるため、予後不良例が多いと言えます。心房細動がある場合は、ワーファリン等の薬剤を使って心房内の血栓の形成を予防する処置をとります。

ラクナ梗塞
  直径1mm以下の脳の深部の血管が閉塞して起こる小梗塞です。梗塞範囲は狭いので、症状は少ないですが、多発すると様々な機能障害が起こります。高血圧症や糖尿病との関連が深く、ラクナ梗塞の予防には、これらの疾患の治療が大切です。

もやもや病
  両側の内頸動脈が閉塞しているため、バイパス血管である側副血行路ができる疾患です。この何本もできたバイパス血管は細くて、もやもやして見えるので、もやもや病と名付けられました。小児は泣いたりしたときに脳虚血の病態を示すのに対し、成人はバイパス血管からの出血で症状が出てきます。治療として、頭蓋外の浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の吻合術が行われることがあります。

脳動脈解離
  動脈解離とは、動脈の血管壁が裂けることです。日本人は椎骨動脈の解離が多いですが、中大脳動脈や前大脳動脈の解離もあります。1/3はクモ膜下出血として、2/3は脳梗塞としてして発症します。突然の頭痛に引き続いて神経症状を示すことが多いようです。若年者の脳血管疾患として重要です。

脳アミロイド血管症
  脳内の動脈にアミロイドβ蛋白質が沈着する病態です。大脳半球の皮質髄質境界部に出血が起こりますが、視床や大脳基底核には出血が起こらないのが特徴です。