ダニの媒介する感染症

◎ダニについて
 マダニは、ダニの一種です。ダニは、節足動物に属しますが昆虫ではなく、クモに近い存在です。昆虫のように、頭、胸、腹に分かれておらず、これらが融合して胴部となり、その前方に口に相当する顎体部があります。ダニには極めて多くの種類が存在しますが、吸血するのは、マダニ、イエダニ、ツツガムシです。イエダニは、血管を破壊して血液を吸入しますが、ツツガムシは微細な幼虫しか寄生できないので、血管を破壊することができず組織液を吸入することになります。いずれも短時間の寄生しかしませんが、マダニは、幼虫、若虫、成虫時に各1回長期にわたって吸血し続け、1cmぐらいの大きさになることもあります。マダニの活動期は春から秋であり、草むらや藪に生息している可能性がありますので、その様な所に入る場合は、長袖、長ズボン、靴等で皮膚が露出しないようにすることが第一の予防法です。吸血しているマダニを見つけたときは、一部の皮膚ごと除去します。引っ張って除去しようとすると、体液を注入したり、顎体部がはずれて残る可能性があります。コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニは、アレルギーの原因となり、ヒゼンダニは疥癬をおこします。ダニと似た生物にノミやシラミがありますが、ノミは完全変態の昆虫であり、シラミは不完全変態の昆虫であり、ダニとは大きく異なります。


◎マダニの媒介する病気と近縁疾患

重症熱性血小板減少症 (Severe fever with thorombocytopenia syndrome : SFTS)
 嘔吐、下痢等の通常の胃腸炎症状に、紫斑や下血等の出血症状が加わる重篤な疾患です。近年中国や米国で散発的に報告されていましたが、日本でも数例報告されるようになりました。マダニに咬まれると、3分節1本鎖RNAウイルスであるSFTSウイルスが体内に入り、6日から2週間程度で発症します。刺し口は、必ずしも見つかりません。検査所見では、10万/mm3以下の血小板減少がみられ、出血性素因の原因となっています。その他、白血球減少、低ナトリウム血症、低カルシウム血症、血尿、蛋白尿等が見られます。リバビリン等の薬剤が使用されていますが、効果は不明です。

ライム病 (Lyme disease)
 
シュルツェマダニの咬傷により、スピロヘーターの一種であるBorrelia burgdorferiに感染して発病します。シュルツェマダニは、本州中部以北の標高千メートル以上の高地に生息しています。数週間の潜伏期の後に、マダニの咬傷部位を中心に遊走性紅斑が出現します。紅斑は、中心部が退色し、周辺に拡大していく大きな輪状紅斑です。数ヵ月以内に自然に治癒しますが、心筋の伝導障害や脳神経麻痺等の内臓障害が経過中に出現します。慢性期になると、慢性萎縮性肢端皮膚炎が見られます。ペニシリンやテトラサイクリンにて治療します。日本では年間十数例の報告が見られます。

野兎病 (Tularemia)
 
野ウサギ、リス、モグラ、ネズミ、ヤマドリ等の感染動物との経皮接触、もしくは、マダニ、蚊、サシバエ等の節足動物の咬傷により、野兎病菌(Francisella tularensis)に感染することにより発症します。多くは一週間以内に侵入門戸に有痛性の小潰瘍ができ所属リンパ節が有痛性に腫脹します。経口感染すると、肺、心臓、中枢神経等に感染を起こし重篤になることがあります。βラクタム剤(ペニシリン等)以外の抗生剤にて治療します。日本では2000年以降の発生報告はありません。

日本紅斑熱 (Japanese spotted fever)
 マダニ咬傷後、数日から一週間程度の潜伏期の後、頭痛、発熱、悪寒戦慄とともに発病します。病原体は、Rickettsia japonicaです。リケッチアとは、自力では増殖できず、宿主の細胞内でのみ増殖できる生物の一つです。発熱と同時にもしくは数日遅れて米粒大から小豆大の紅斑が多発します。紅斑部に掻痒感はなく、その後出血性となります。Weil-Felix反応のOX2が強陽性を示します。年間100例程度の発生が見られます。テトラサイクリンで治療します。

ツツガムシ病 (Tutugamushi disease)
  ツツガムシの幼虫にさされることにより、リケッチアに分類されるOrientia tsutsugamushiに感染し発病します。潜伏期は10日程度であり、頭痛、高熱、悪寒戦慄により発症し、数日後に全身に発疹が出現します。発熱、刺し口、発疹が3主徴であり、刺し口は直径5〜10mmで周囲は隆起します。数日で水疱を形成し、潰瘍となり、黒褐色の痂皮で覆われます。発疹は、発病数日後に出現し、直径5mm前後の境界不鮮明な紅色の丘疹で癒合しません。全身のリンパ節の有痛性の腫脹も見られます。日本紅斑熱と比較して、発疹が四肢より体幹に多いこと、刺し口が大きいこと等が鑑別点ですが、臨床症状のみでは必ずしも鑑別できません。 Weil-Felix反応のOXKが強陽性に出ると、診断がつきます。年間1000例程度の発生が見られます。重症例では、播種性血管内凝固症候群や多臓器不全を起こすことがあります。テトラサイクリンにて治療します。