糖尿病

血糖とは
 ブドウ糖は、人間の主たるエネルギー源です。特に脳はその依存度が高く、その他の臓器も例外なくブドウ糖をエネルギー源として使用します。(一部の臓器では、脂肪酸やケトン体おいう物質もエネルギーとして利用可能です。)ブドウ糖の血液中の濃度を血糖値といい、通常は空腹時で100mg/dlをやや下回る程度に調整されています。ブドウ糖は、車で言えばガソリンのようなものです。人間を構成する様々な細胞は、ブドウ糖と酸素を取り込み、ブドウ糖を燃やして、エネルギーを得ます。そのエネルギーにより、脳ではものを考え、筋肉では物を持ったり歩いたりする力を得ます。(酸素を使わないでエネルギーを得る方法として解糖系を、酸素を使ってエネルギーを得方法としてTCA回路を使います。通常は、エネルギーを多く取り出せる後者を使って、動物は様々な生命活動を行います。)
 人は、ブドウ糖そのものを食品として摂取することはまれですが、でんぷんやグリコーゲンとして摂取します。どちらもブドウ糖が鎖のようにつながったものですが、でんぷんは主に穀類に、グリコーゲンは主に肉類に含まれます。でんぷんやグリコーゲンはそのままでは体に吸収されませんが、唾液や膵液のアミラーゼによって細かく分けられ、最終的には小腸の上皮細胞によりひとつずつのブドウ糖に分解され、体内に吸収されます。
 吸収されたブドウ糖の大部分は、すぐに使う必要がないため、肝臓で再びグリコーゲンに変換され蓄えられます。食事をしていない時間帯でも血糖値が適度に保たれているのは、肝臓がグリコーゲンを再度分解してブドウ糖として体に供給しているからです。

ブドウ糖とインスリンの関係
 ブドウ糖が細胞に利用されるためには、細胞の中に入らなければなりません。最もブドウ糖を多く必要とする脳細胞は、拡散という自然の流れで細胞内にブドウ糖を取り込むことができますが、他の生きた細胞はインスリンという鍵を必要とします。インスリンというのは膵臓から出ているホルモンです。膵臓は、食べ物を消化する酵素を出すことで有名ですが、もう一つの働きがこのインスリンを出すことです。インスリンは、血糖値が高くなると膵臓のβ細胞というところから放出され、様々な細胞の鍵穴に差し込まれます。この鍵穴のことを、インスリン受容体(インスリンレセプタ)と言います。インスリンが受容体にはまりこむと、グルット4と言われるブドウ糖を運ぶ装置が細胞の表面に出てきて、「パクッ」とブドウ糖を捕まえ、細胞の中に引きずり込みます。

糖尿病とは
 このように、インスリンの働きにより、細胞はブドウ糖をエネルギー源として利用することができ、同時に血糖値をほどよい値に調節することも可能になります。しかしながら、この働きがうまくいかないと、様々な不都合がおこってきます。その代表的な病気が糖尿病です。糖尿病には、いくつかの種類がありますが、1型糖尿病と2型糖尿病が最も重要です。1型糖尿病は、インスリンが膵臓から十分に出ないために、血糖値が上がることが特徴です。2型糖尿病は、インスリンが受容体に結合しても、ブドウ糖を取り込むためのステップに進まない状態です。1型糖尿病は、多くは免疫の異常より起こり、ウイルス感染等が誘因となることがあります。ブドウ糖をエネルギーとして利用することができないため、患者さんの多くはやせています。また、子供や若い人に多いのも特徴です。これに対し、2型糖尿病の人は、太っていることが多く、肥満をもたらす脂肪細胞から、体に悪さをするいろいろな物質が出ることにより、インスリンが十分な働きをすることができなくなっている病気と言えます(インスリン抵抗性と言います)。肥満には、内臓に脂肪がたまるタイプと皮下に脂肪がたまるタイプがありますが、インスリン抵抗性を起こしやすいのは、内臓に脂肪がたまるタイプです。内臓にたまった脂肪からは、動脈硬化を起こりやすくする様々な物質が出てくることがわかっています。また、最近は過食で脂肪肝になったり、運動不足で筋肉細胞内に脂肪がたまることが、インスリン抵抗性に関与していることがわかってきました。このように2型糖尿病は、後天的な要因が発症に大きなウエートを占めますが、もともと食事をした時のインスリンの出るタイミングが遅い人が多く、先天的な素因も関与しているようです。膵臓のβ細胞は、最初のうちは、効果の低下したインスリンの作用を補おうと、より多くのインスリンを出して対応しますが、そのうちβ細胞が疲れ果て、結局インスリンの分泌が悪くなってしまいます。また、日本人を含めたアジア人は、もともとβ細胞がインスリンを出す能力が欧米人より低く、あまり太っていなくても2型糖尿病になることがあります。
 特殊な糖尿病として、その他の特定の機序、疾患によるものや、妊娠糖尿病があります。前者には、特殊な遺伝子異常によるものやホルモンの異常など、種々の原因があります。妊娠糖尿病は、妊娠してから初めて発症する糖尿病です。妊婦さんが糖尿病になると胎児に奇形を含めた様々な影響を与えますので、慎重な対応が必要です。糖尿病の妊婦さんは、産科医とと糖尿病専門医が連携し、インスリンを使って厳しく血糖をコントロールすることが必要です。

HbA1cの基準の変更について
 糖代謝を調べる有用な検査として、HbA1cという検査があります。ブドウ糖は、様々な物質に結合する性質があり、ヘモグロビンにもくっつきます。このブドウ糖のくっついたヘモグロビンの割合を測定する検査が、HbA1cです。(専門的なことを言いますと、国際基準では、ヘモグロビンのβ鎖N末端にあるバリンというアミノ酸にブドウ糖がくっついたものをHbA1cと呼ぶとしています。)ヘモグロビンは赤血球中に存在し、骨髄で製造された後、血液中のブドウ糖にさらされ、徐々にブドウ糖のくっついたヘモグロビンが増えていきます。赤血球およびその中にあるヘモグロビンは製造約120日後に壊され廃棄され、新しいヘモグロビンと入れ替わりますので、HbA1cがどんどん増えていくということはなく、一定の値でつり合います。正常な人ですと5%前後となります。ところが糖尿病の人は、血糖値が高いので、ヘモグロビンがブドウ糖にさらされる量が多く、その値が上昇します。重い糖尿病の場合ですと、10%を超えることもあります。血糖値は空腹時は値が低くなり、食後は値が高くなります。つまり採血する条件によって、値が大いに異なるのです。しかし、HbA1cは数ヵ月程度の血糖の平均値に比例する値として示されますので、空腹での採血であろうが、満腹での採血であろうが、結果に影響が出ません。糖尿病の状態をよく表すということで、糖尿病の人を管理するには大変便利な指標となります。
 日本では、HbA1cはJDS値という数値で示されますが、米国をはじめとする多くの国ではNGSP値という数値で示されます。日本の測定方法は、大変正確でよいものですが、論文や国際学会の発表では、日本だけがJDS値で検査結果を表示すると混乱が生じますので、本年4月よりNGSP値を使用することになりました。しかし、一般診療では混乱を避けるために、これまでの値と比較しやすいように当分の間JDS値も併記されます。換算式は、NGSP(%)=1.019×JDS(%)+0.3となります。臨床で測定される範囲の値であれば、NGSP値は、JDS値に0.4を足した値と考えていただいてよいでしょう。(例えば、従来から使っているJDS値で7.0%であれば、NGSP値では7.4%となります。)

糖負荷試験をすると、軽い糖尿病でも見つかる
 糖負荷試験という検査があります。これは、空腹時にブドウ糖を75g 飲んでいただき、その後の血糖値の変化をみる検査です。負荷前・30分後・60分後・120分後に採血するのが標準的です。多くの場合、インスリンの出具合も同時にみます。突然、体の中にブドウ糖が入ってくると、β細胞はあわててインスリンを出して血糖値を下げなければなりません。この反応が悪いと、糖尿病だなとわかるわけです。また、血糖値の上がり方や、インスリンの出具合等の体の反応の仕方で、糖尿病の種類を見分けることが可能であり、最適な治療を選択する助けにもなります。

血糖は、食後に測ってもよいか
 診療で血糖値を測りましょうと言うと、多くの患者さんは食事をしてきたので次回の診療時にして下さいと言われます。食後に測っては本当にだめなのでしょうか。実は、空腹時血糖も、食後血糖もそれぞれに測る価値があるのです。朝食を摂らずに来院した時というのは、前日から絶食している状態です。つまり最も血糖値の低い状態です。軽い糖尿病の場合、夕食後や寝る前に血糖値が高くても、一晩かけてブドウ糖を細胞内に取り込み、翌朝には何とか正常の血糖値にもって行くことが可能です。つまり、軽い糖尿病では、空腹時の血糖値は異常値を示さないのです。ところがそのような人でも、食事をすると血糖値が異常に上がり、病気を見つけることができます。耐糖能障害と言われる糖尿病の一歩手前の人や軽い糖尿病の人でも、食後の血糖値の上昇が強く、正常値に戻るのに時間がかかるため、異常を見つけることができるのです。もちろん、採血の目的によって、望ましい採血の条件は変わってきますが、通常の診療においては、採血時に空腹であることにそれほどこだわる必要はありません。あえて食後に採血を行うこともあるぐらいです。


糖尿病の診断基準
 糖尿病の診断基準が、2010年7月1日より、変更になりました。
 従来の診断基準では、
【1】@空腹時血糖値126mg/dL以上。A75g糖負荷試験で2時間値200mg/dL以上、 B随時血糖値200mg/dL以上のいずれかが、別の日に行った2回以上の検査で認められるときに、糖尿病と診断する。血糖値がこれらの基準値を超えても1回だけの場合は糖尿病型と呼ぶ。
【2】糖尿病型を示し、かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる。(1)糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在する時、(2)HbA1cが6.5%以上の時、(3)確実な糖尿病網膜症の存在する時。
【3】過去において上記【1】ないし【2】の条件がみたされていたことが確認できる場合は、現在の検査結果にかかわらず、糖尿病と診断するか、糖尿病の疑いをもって対応する。

 新診断基準では、
【1】@空腹時血糖値126mg/dL以上。A75g糖負荷試験で2時間値200mg/dL以上、 B随時血糖値200mg/dL以上CHbA1cが、6.1%以上(JDS値)のいずれかが、認められれば、糖尿病型と判断し、さらに別の日に行った検査でも糖尿病型と判断されれば、糖尿病と診断する。ただし、両者がHbA1cである場合は糖尿病とは診断できず、必ず一方は血糖値による判定でなければならない。
【2】上記@ABのいずれかの基準により糖尿病型と判断し、かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる。(1)糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在する時、(2)確実な糖尿病網膜症の存在する時。
【3】過去において上記【1】ないし【2】の条件がみたされていたことが確認できる場合は、現在の検査結果にかかわらず、糖尿病と診断するか、糖尿病の疑いをもって対応する。

 HbA1cが、【1】の項目に加わったこと、HbA1cが以前より厳しい基準になったことが主な変更点です。注意することは、HbA1cの診断基準における重要性が増したとはいえ、血糖値が、血液検査の判断基準として必要であるということです。HbA1cで糖尿病を判定する基準値は、JDS値では6.1%以上ですが、NGSP値では6.5%以上となります。

 特定健康診査(特定健診)では、空腹時血糖100mg/dl以上もしくはHbA1c 5.2%以上を、保健指導の必要な者として選び出す基準にしています。一般診療の基準と比較して、かなり厳しい基準と言えます。一般診療や通常の健康診断の検査では、現在病気かどうかをしらべるのが目的ですが、特定健診は、将来病気になりそうな人を選び出し指導するというのが目的であるため、厳しい基準になっていると思われます。

 糖尿病という病名は、糖を含んだ尿が出るという意味ですが、尿糖の有無は診断基準には含まれません。一般に血糖値が170mg/dl前後を超えると、尿から糖が漏れてくることが多いですが、人によってもれ出す血糖値がまちまちなので、診断基準には含まれないのです。しかし、健康診断では糖尿病を発見するきっかけになり、糖尿病の人にとっては高血糖であるかどうかの簡便な指標になりますので、尿糖の有無を調べることも重要です。◎糖尿病の診断基準の変更



糖尿病になると、なぜ悪いのか
 では、なぜ糖尿病になると問題なのでしょう。糖尿病は、血管の病気とも言われます。糖尿病が体によくない最も大きな理由は、この血管を傷める合併症を引き起こすことにあります。血管には、大動脈のような直径数 cm もある血管から、顕微鏡で見なければわからないような毛細血管まで様々な血管があります。糖尿病は、これら全ての血管に障害を与えます。
 小さな血管を傷める合併症として、糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症・糖尿病性神経症があります。
糖尿病性網膜症は、最も困る合併症で、最悪の場合は、失明にも至ります。失明の最も大きな原因が糖尿病であることから、重大性がわかるでしょう。網膜というのは、カメラでいうフイルムの様な物ですが、その網膜上に新しく弱い血管が異常に発生し、出血等により、網膜の機能を低下させます。幸い網膜は眼底鏡という器械で見ることができますので、網膜症の進行状況は、正確に判断することができます。糖尿病の方は、是非定期的に眼科を受診して、網膜のチェックをして下さい。網膜症の進み具合によっては、光凝固等の処置により、進行をある程度おさえることが可能です。
糖尿病性腎症もやはり困った合併症です。最初は、ごく微量の蛋白尿ではじまり、徐々に尿蛋白が増え、最終的に腎臓の機能を損ない、透析に至ります。現在、透析の原因で最も多いのが、糖尿病性腎症です。
糖尿病性神経症は、神経を養う血管の通りが悪くなったり、神経細胞の中にある種の物質がたまることにより、神経の機能が障害される合併症です。神経は体の様々な機能を調整したり、痛みを伝えることにより脳に異常を知らせたりする大切な機能を担っています。この神経が障害を受けると、様々な不都合が生じることは想像できるでしょう。
 大きな血管を傷める合併症は、動脈硬化と言われます。心臓の血管を傷めると狭心症や心筋梗塞になり、脳の血管を傷めると脳梗塞となり、命に直結する病気に発展します。また、足の血管を傷めると、閉塞性動脈硬化症となり場合によっては足の切断ということにもなりかねません。
 このように、糖尿病は血管を傷めることにより、様々な合併症を引き起こします。これら合併症を予防する最も大切なことは血糖値を改善することです。HbA1c で6.5%以下にすること、可能であれば正常上限の5.8%未満にすることが理想でしょう。また、前項で少し触れた耐糖能障害という、空腹時は血糖値が正常で食後のみ異常に血糖値が上がる方でも、糖尿病同様の合併症が起こることが知られており、早めに治療を始めることが大切です。


◎糖尿病と治療薬について
 ブドウ糖は、人体のエネルギー源として最も重要な物質です。食品中には、ブドウ糖がいくつもつながったデンプンのような多糖類や二つの糖でできたショ糖などの二糖類といった形で多く存在しています。摂取されたこれらの糖類は、消化酵素によりブドウ糖に分解された後に吸収され、血流に乗って体内の各所に運ばれます。ブドウ糖は、エネルギーを産生するために消費(解糖・酸化)され、残りは再び重合されて、グリコーゲンとして体に蓄えられます。ブドウ糖がエネルギー源として利用されるためには、細胞の中に入る必要があり、その際にインスリンというホルモンが必要になります。血糖値が増加すると、インスリンが膵臓にあるβ細胞より分泌され、血糖値を正常化させるように働きます。糖尿病は、インスリンの分泌が不十分であったり、インスリンの働きが細胞内で十分にできなかった時に起こる病気です。糖尿病では、ブドウ糖が血液中から細胞内に移動できないため、血液中にブドウ糖が溜まってしまい、血糖値が上がります。
糖尿病の治療薬として、以下の薬剤があります。
◆インスリン製剤
 
注射にて、血糖調節に直接関わるインスリンもしくはインスリンアナログを投与します。インスリンアナログというのは、インスリンのアミノ酸の一部を変更して、作用時間等の性質を変えたものです。超速効型、速効型、中間型、持効型、混合型など様々な製剤があり、最も適切なものを選びます。
◆スルホニル尿素薬(SU薬)
 
β細胞にあるSU受容体に結合して、インスリンの分泌を促します。最も基本的な経口糖尿病薬ですが、量や服用のタイミングが適切でないと低血糖を起こすことが欠点です。
◆速効型インスリン分泌促進薬
 
SU薬と似ていますが、作用の発現が速いので、食後高血糖を防ぐのに適しています。作用時間は短く、薬効はSU薬よりも弱めです。
◆ビグアナイド薬
 
肝臓での糖の新生を押さえ、筋肉での糖の取り込みを促進することにより血糖値を低下させます。肥満を防ぐ作用もあります。現在使われているのはメトホルミンですが、過去の類似薬に乳酸アシドーシスという副作用がありましたので、念のために、血清の乳酸値をチェックしながら治療を行います。
◆αグルコシダーゼ阻害薬
 
食事中のデンプンやショ糖を分解してブドウ糖にする酵素の働きを抑える薬剤です。これにより、ブドウ糖を吸収までの時間を遅らせることができ、インスリンの分泌不全があっても、対応できるようにします。他の薬剤と併用する場合は、低血糖に備えてブドウ糖を携帯しておきます。
◆チアゾリジン薬
 
インスリンの感受性を高めることにより、細胞の糖の取り込みを促進します。また、脂肪細胞を作り替えることにより、動脈硬化を促進するホルモンの産生を抑制します。

◎糖尿病の新しい治療薬
 糖尿病の新しい治療薬として、インクレチンという消化管ホルモンが注目されています。血糖値は、インスリンというホルモンにより調節されています。血糖値が上がれば、膵臓のβ細胞からインスリンが分泌され血液中ブドウ糖を細胞内に取り込むことにより、血糖値を下げます。インスリンの分泌刺激として血糖値の上昇だけでなく、消化管内のブドウ糖も分泌刺激となることがわかってきました。この役割の仲介をなすのがインクレチンです。摂取した食物が胃を通過して十二指腸に入ってくるとK細胞よりGIPというインクレチンが分泌され、さらに小腸下部や大腸に達するとL細胞よりGLP-1というインクレチンが分泌されます。これらのインクレチンは血流にのって膵臓に運ばれ、β細胞からのインスリンの分泌を刺激します。この作用の特徴は、血糖値が高いときのみ分泌を刺激するということです。インクレチンのこの性質は、糖尿病治療薬として使用する際、低血糖をおこしにくいという意味で、大きな長所となります。ただ、このインクレチンというホルモンを治療薬として利用する場合、分泌後速やかに分解されて体内より消失するというもう一つの性質が欠点となります。インクレチンを分解するのは、DPP-4という酵素です。この酵素の働きを阻害することができれば、消化管から分泌されたインクレチンの効果を高めることができ、DPP-4に分解されにくいインクレチン類似薬を作れば、体内より出たインクレチンの働きを助けることができます。前者の考えにより作られた薬剤が、DPP-4阻害薬であり、後者がGLP-1受容体作動薬です。
DPP-4阻害薬:GIPとGLP-1の分解を阻害することにより、両者の作用を増強させます。現在4種類の薬剤が発売されており、シタグリプチン(ジャヌビア・グラクティブ)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)です。処方回数、併用可能薬、代謝等にそれぞれ特徴があり、患者さんに最も適合した薬剤を処方します。
GLP-1受容体作動薬:GLP-1には、胃内容排出の遅延作用や食事摂取量の抑制作用があり、GLP-1受容体作動薬は、他の糖尿病治療薬にしばしば見られる副作用である体重増加を来しにくいと考えられています。現在、経口剤はなく、注射薬のみです。リラグルチド(ビクトーザ)、エキセナチド(バイエッタ)の2種類の製剤が使用可能です。

略語 GIP:gastric inhibitory polypeptide GLP-1:glucagon like peptide-1 DPP-4:dipeptidyl peptidase W


京都市中京区 内科皮膚科 西村医院

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