脂質異常症

脂質とは
 体の中には、いくつかの脂質があり、その代表的なものがコレステロールと中性脂肪です。コレステロールは健康診断等で悪者のように扱われていますが、細胞膜の構成要素やホルモンの原料として、非常に大切なな役割を担っています。しかしながら、血液中に多すぎると、血管の中に入り込み動脈硬化を引き起こします。動脈硬化がおこると、血管の内腔が狭くなり、血の巡りが悪くなり、脳梗塞や心筋梗塞を招くこともあります。中性脂肪はエネルギーをためることを目的とした脂質で、太る原因は、この中性脂肪の過度の蓄積です。皮下脂肪は、体の保温や衝撃の緩衝に役立ちますが、内臓に貯まった脂肪は、様々な病気の原因となります。腹部超音波検査等で、脂肪肝を指摘されたら、アルコールの飲み過ぎや、カロリーの摂りすぎ、運動不足に注意しましょう。

脂質異常症
 コレステロールや中性脂肪等の脂質が血液中に多いと、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞といった合併症をしばしば引き起こすことが知られています。脂質が多い状態をこれまで高脂血症と呼んできましたが、2007年2月の動脈硬化学会の新しいガイドラインで、脂質異常症と呼ぶことに決定しました。コレステロールの中には、悪玉コレステロールと言われるLDL-コレステロールと、善玉コレステロールと呼ばれるHDL-コレステロールがあります。LDL-コレステロールが多い人は動脈硬化が進みやすく、逆にHDL-コレステロールが多い人は動脈硬化になりにくい傾向があります。これまで、両者を含めたすべてのコレステロール総和である、総コレステロールが、高脂血症を判断する指標として使用されてきましたが、新しい基準ではLDL-コレステロールを脂質異常症の指標として使うことになりました。HDL-コレステロールが低い人も動脈硬化を起こしやすいので、脂質異常症に含まれます。

食後高脂血症
 コレステロール値はあまり食事の影響を受けませんが、中性脂肪(トリグリセリド)は食事の影響を受けやすく、食後2〜3時間で空腹時の1.5倍ぐらいに上昇し、もとの値に戻るのに8時間ぐらいかかります。メタボリックシンドロームや糖尿病などの代謝に異常のある人は、さらに上昇し、食前の10倍近くの値になることもあります。肥満、運動不足、アルコールも食後中性脂肪の上昇を強くし、空腹時の値に戻るまでの時間を延長させます。このように、食後に中性脂肪が著明に上昇する状態を食後高脂血症もしくは食後高中性脂肪血症と呼びます。本症では、脂肪が代謝されてゆく過程のレムナントリポ蛋白という物質が増えています。このレムナントリポ蛋白は動脈壁に侵入してたまりやすく、結果として動脈硬化を起こします。生活習慣病が気になる方は、空腹時の血液検査のみではなく、食後2時間ぐらいでの血液検査もすることをお勧めします。

総コレステロールを低下させる基本は、食事療法です。
食事療法のポイントは、
◎コレステロールを含んだ食品の摂取を控える(鶏卵、魚の卵、臓物)
◎食事摂取量を少なくする。
◎脂肪分(特に動物性脂肪)を控える。
◎食物繊維を多めにとる。食物繊維は、コレステロールや、胆汁酸を吸着し、腸からの吸収を阻害します。
◎アルコール摂取を控える。
◎タバコをやめる。喫煙は、HDLコレステロールを低下させます。
◎適度の運動をする。運動は、HDLコレステロールを増加させます。
 



脂質異常症(高脂血症)の治療薬
 脂質異常症の薬には様々な種類があり、患者さんの病状あった薬を処方します。
代表的な薬剤は、以下の通りです。
 スタチン:コレステロールは主に肝臓で作られます。その製造過程の酵素の一つを阻害することによりコレステロールの合成を抑える薬剤です。コレステロールの製造が減ると、血液への供給が減るだけでなく、肝臓内の減少したコレステロールを補うために血液中のコレステロールが肝臓に戻され、更にコレステロール値が下がります。中性脂肪を下げる作用も若干あります。この薬で注目されている点は、コレステロールを下げる以外にも多くの副効用があり,動脈硬化を更に防ぐという期待が持たれている点です。また,骨粗鬆症や認知症にも有用な可能性も期待されています。副作用として横紋筋融解症があり、筋肉が痛み尿が暗赤色になります。更に進むと腎不全になることもあります。極めてまれにしか起こらない副作用ですが、スタチンを服用されている方は念のために、服薬開始数週間後とその後の数ヵ月ごとの血液検査をして下さい。患者さん自身が,尿の色が暗赤色にならないかチェックすることも有用です。(商品名:メバロチン、リポバス、ローコール、リピトール、リバロ、クレストール)
 フィブラート:主に中性脂肪を下げる薬です。動脈硬化を起こしやすいレムナントを下げる作用が強く、また軽度ながら糖尿病を改善する作用もあります。スタチンと同じく、極めてまれながら横紋筋融解症を起こすことがあり、同様の検査や注意が必要です。(商品名:ベザトールSR、リピディル)
 EPA:脂質改善作用の他に、動脈硬化に関連ある血小板の作用を抑えます。(商品名:エパデール)
 胆汁酸吸収阻害剤:コレステロールの元になる、胆汁酸の吸収を阻害する薬剤です。体内に吸収されないことから、最も安全な薬剤と言えますが、ビタミン等の体に有用な物質の吸収も低下させることが欠点です。(商品名:コレバイン)
 コレステロール吸収阻害剤:最も新しい薬剤です。スタチンとの併用により強力な薬効を発揮します。体内の酸化コレステロールを減少させるという説もあり、有用性が期待される薬剤です。(商品名:ゼチーア)



動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版について
 
動脈硬化を防ぐにはどのような医療を行うのがよいかという指針を示したものが、動脈硬化性疾患予防ガイドラインです。2012年6月に新しい版が発表されました。動脈硬化に最も関係の深いのは、コレステロールと中性脂肪ですので、特にこれらの脂質について詳しく記載されています。新しい版では、境界域高コレステロール血症が新たに規定され、脂質異常症治療の基準が絶対リスクで判断されるようになりました。
(前ガイドラインでは、TC160mg/dLの相対リスクが1.6倍となる220mg/dLをスクリーニング基準としていました。)
 
【表1】脂質異常症スクリーニングのための診断基準(空腹時採血)


LDLコレステロール
 

140mg/dL以上

高LDLコレステロール血症

120-139mg/dL

境界域高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール

40mg/dL未満

低HDLコレステロール血症

トリグリセライド
 

150mg/dL以上
 

高トリグリセライド血症
LDL-コレステロールは、Friedewaldの式(TC−HDL-C −TG/5)で計算する (TGが400mg/dL未満の場合)。  
TGが400mg/dL以上や食後採血の場合には、non HDL-Cを使用 し、その基準はLDL-C+30mg/dLとする。
10-12時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし、、水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
スクリーニングで境界域LDLコレステロール血症を示した場 合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
 
脂質異常症を管理するために、カテゴリー分類がなされています。すでに、冠動脈疾患の既往のある方は、二次予防(再発 の防止)が必要ということで、厳しい管理が要求されます。冠動脈疾患を起こしていない方のうち、糖尿病、慢性腎臓病 (CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)を持っている方は、カテゴリーVに分類されます。その他の者は、総コレス テロール、性別、年齢、収縮期血圧、喫煙により絶対リスクを求め、カテゴリー分類を行います。絶対リスクの予測には、 NIPPON DATA80という臨床試験の結果を活用します。ただ、この試験には低HDLコレステロール血症(<40mg/dL)、冠動脈家 族歴の有無、耐糖能異常の有無は含まれていないので、これらが存在するときは、カテゴリーを1ランク上げます。
 
【表2】LDL管理目標設定 



NIPPON DATA80による、10年間の冠動脈疾患による死亡確率(絶対リスク)

          追加リスクの有無


追加リスクなし
 

低HDLコレステロール血症(<40mg/dl)、
早発性冠動脈家族歴(第1度近親者かつ男性55才未満、女性65才未満)
耐糖能異常     のいずれかの存在

  0.5未満

カテゴリーT

カテゴリーU

  0.5以上2.0%未満

カテゴリーU

カテゴリーV

  2.0%以上
 

カテゴリーV
 

カテゴリーV
 


【表3】リスク区分別脂質管理目標値


治療方針の原則
 


管理区分
 

     脂質管理目標値(mg/dL)

 LDL-C

 HDL-C

  TG

non HDL-C

一次予防
まず生活習慣の改善を行った後薬物療法の適用を考慮する
 

カテゴリーT

 <160




  ≧40





 




 <150





 

  <190

カテゴリーU

 <140

  <170

カテゴリーV

 <120

  <150

二次予防
生活習慣の是正とともに薬物療法を考慮する
 

冠動脈疾患の
既往

 


 <100

 

 
  <130

 
これらの数値は、あくまで努力目標である。LDL-Cは20-30%の低下を目標とすることも考慮する。
non HDL-Cの管理目標値は、高TG血症の場合に LDL-Cの管理目標を達成した後の二次目標である。
TGが400mg/dL以上及び食後採血の場合は、 non HDL-Cを用いる。
目標達成の基本は、生活習慣の改善である。
カテゴリーTにおける薬物療法の適応を考慮するLDL-Cの基準は180
mg/dL以上とする。
家族性高コレステロール血症のLDL-C管理目標値は、100mg/dL以下とする。
後期高齢者の治療に関しては、エビデンスはない。
 




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