脂肪肝

◎脂肪と脂肪細胞ついて
 脂肪には、中性脂肪、コレステロール、リン脂質など様々な種類があります。その中でも、中性脂肪は体の中に最も多く存在します。中性脂肪は、グリセロールに脂肪酸が3つついたものであることから、トリグリセリド(TG)とも言われます。中性脂肪は、心臓のエネルギー源として最も重要です。体細胞では、ブドウ糖が最も重要なエネルギー源ですが、ブドウ糖の供給が十分でないときは、中性脂肪がエネルギー源として使われます。血液中の中性脂肪は、血管の内皮細胞のリポ蛋白リパーゼにより脂肪酸が分離され、細胞内に取り込まれ、細胞内で再び中性脂肪に合成され、蓄えられます。ブドウ糖も余っているときは、細胞内で中性脂肪に変えられ、蓄えられます。脂肪を蓄える細胞は脂肪細胞と言われ、細胞質の大部分を脂肪滴が占めています。皮下にある脂肪細胞にたまった脂肪を皮下脂肪、腸間膜を中心とした内蔵の脂肪細胞にたまった脂肪を内臓脂肪と言います。皮下脂肪細胞は、エネルギーの貯蔵庫として、体温を保持する断熱材として、体外からの衝撃を和らげる緩衝材としての働きを持っています。内臓脂肪細胞もエネルギーの貯蔵庫として働きますが、それだけでなく様々なホルモンを出す内分泌細胞としての役割も注目されています。これらの物質はアディポサイトカインと言われ、体に有益なものと、有害なものがあります。有益なものは善玉アディポサイトカインと言われ、アディポネクチンやレプチンがあります。有害なものは悪玉アディポサイトカインと言われ、TNF-α、FFA、PAI-1等があります。内臓脂肪が多くて肥満になっている状態を、内臓肥満と言いますが、このような状態の時は悪玉サイトカインの作用が主になっており、動脈硬化を含めた様々な病気を引き起こします。


◎脂肪肝について
 脂肪細胞だけでなく、臓器の細胞にも中性脂肪がたまることがあります。最も頻度が高いのが肝臓であり、肝臓に脂肪がたまった状態を脂肪肝と言います。通常肝細胞の1/3に脂肪滴が見られると脂肪肝と診断しますが、5%もしくは10%以上存在している場合とする基準もあります。肝での脂肪酸合成の増加、食事や末梢組織からの肝への脂肪酸流入の増加、脂肪酸の酸化の低下、リポ蛋白を合成して脂肪を分泌する機能の低下等のいずれかが起こると、脂肪肝となります。臨床では、腹部超音波検査で、肝臓の輝度と腎臓の輝度を比較し、肝臓の輝度が高いbright liverと呼ばれる状況であれば、脂肪肝と診断します。脂肪肝になる原因の代表が、アルコールの飲み過ぎ、肥満、2型糖尿病です。

アルコール性脂肪肝:アルコールは体内に入ると、主にアルコール脱水素酵素(ADH)の作用でアセトアルデヒドになり、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の作用で酢酸に代謝されます。中間代謝産物であるアセトアルデヒドは肝細胞に障害を与え、大量のアルコールを長期にわたって飲み続けると、アルコール性脂肪肝炎、肝硬変を経て肝臓癌となることがあります。ADHとALDHには酵素活性の強いタイプと弱いタイプがあり、遺伝子多型と呼びます。日本人は、ADHの働きは強いがALDHの働きは弱いという遺伝子多型を持つ人が多く、これらの人はアルコール性の肝疾患を起こしやすい傾向にあります。アルコール性肝硬変は肝臓癌にならなくても致死率が高い疾患ですが、アルコール摂取を中止すると他の原因による肝硬変より予後は良好です。アルコールを多く飲むと、γ-GT(γ-GTP)の上昇を認めることが知られていますが、お酒を飲んでも上昇しない人もいます。赤血球の大きさを示すMCVという指標があり、この数値はアルコールを多く飲み続けると上昇するため、飲酒の指標の一つになります。

非アルコール性脂肪肝:アルコールを原因としない脂肪肝は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と言われます。血液検査では、コリンエステラーゼが上昇しているのが特徴です。NAFLDには、単純性脂肪肝(SS)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)があります。SSは肝臓に脂肪が蓄積しているだけの予後良好な疾患ですが、NASHは肝臓の炎症を伴う脂肪の蓄積であり、肝硬変や肝癌に進展しやすく、一般に予後は不良です。NASHの成立機序として以前よりtwo hits theoryが提唱されています。これは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病が最初の引き金(first hit)となってSSが発生し、内臓脂肪細胞から出る悪玉アディポサイトカイン、脂質過酸化、鉄過剰蓄積等がsecond hitとなりNASHになるというものです。NASHを正確に判定するには肝生検により、大滴性の脂肪蓄積、肝細胞風船様変性、炎症性細胞浸潤の存在を確認することが必要ですが、臨床では、血液検査にてフェリチン高値、血小板数低下、W型コラーゲン7S高値、インスリン抵抗指数(HOMA-R)高値及び脾腫等の存在により、NASHであることを疑います。



京都市中京区 内科皮膚科 西村医院
(下京区四条烏丸より徒歩5分)
(下京区四条河原町より徒歩15分)
(中京区烏丸御池より徒歩10分)