HIV感染症

 HIVは、レトロウイルスという種類のウイルスです。通常、生物は遺伝情報をDNAに保存し、それをRNAに転写し、蛋白合成を行い、生きてゆくための様々な物質を作ります。昔は、RNAからDNAが作られることはないとおもわれていましたが、数十年前にそのようなウイルスが存在することが発見され、レトロウイルスと名付けられました。HIVウイルスは、リンパ球に感染し、リンパ球を破壊することにより徐々に宿主(患者)の免疫力を低下させます。

 感染は、性行為もしくは血液を介して起こります。以前は、血液製剤を介した医療上の感染が多発し、社会問題にもなりましたが、今日では血液および薬剤の管理が徹底されており、薬害としてのHIV感染が起こる確率は、きわめて少ないものとなっています。性行為や針刺し事故等で感染が起こると、数週間後に感冒様症状がおこり、自然軽快後、10年前後の無症候期に入ります。見た目は無症状ですが、体内では、HIVとリンパ球の激しい戦いが続いています。最初はリンパ球はHIVを押さえ込んでいるので、問題は起こりませんが、時間とともに免疫システムは疲弊し、リンパ球が減少して、免疫不全の状態となります。CD4陽性リンパ球(CD4細胞)の数が200/μLを下回ると、様々な感染症が起こってくるようになります。この状態が、後天性免疫不全症候群(AIDS)です。この病気の問題点は、免疫不全により感染症を合併するということです。その多くは、正常な免疫状態であれば、発病しない病原体によるものですが、AIDSになると、生命を左右するものとなります。

 治療薬として、核酸系逆転写酵素阻害剤、非核酸系逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤があり、さらにインテグラーゼ阻害剤も治療薬に」加わりなした。また、HIVの酵素を阻害する薬剤に加えて、リンパ球表面にあってHIVが侵入する際に必要になるCCR5に対する拮抗剤も承認され、治療の幅が広がりました。
治療の開始時期は、CD4リンパ球の数で決定されます。この基準となるCD4数は、時代とともに変遷してきました。1990年代半ばは、できるだけ早く強い治療が望ましいと考えられましたが、メモリーT細胞のウイルスを排除できないことから、2000年前後よりCD4細胞数が、200/μLに低下するまで待つようになりました。ところが、データがそろってくると、CD4数が高いうちに治療を開始した方が、CD4数が高い値に回復すると言うことがわかり、再び早めに治療を開始するようになってきました。現在では、CD4数が350/μLを切ると治療するということになっています。以前は医療薬が多く、服用するのが大変でしたが、最近は合剤や長時間有効な薬剤が増え、服用がだいぶん楽になりました。HIV患者の予後は好転し、今は慢性疾患といってもよい病気です。しかし、開発途上国では、経済的問題から薬剤を購入できず、国際的、人道的問題となっています。(製薬会社との間で、歩み寄りもみられます。)