◎インフルエンザウイルスとは
 インフルエンザウイルスは、RNAウイルスという分類に属するウイルスで、感染すると、流行性感冒の別名どおり、風邪の症状をひきおこします。このインフルエンザウイルスには3種類あり、A型、B型、C型と呼ばれています。A型は最も症状が強く、第一次世界大戦頃に流行したスペイン風邪もこれに属します。B型は、A型より幾分症状は軽いといわれますが、筋肉痛の強いのが特徴です。C型は、大部分の人が小児のうちに抗体を持つため、問題となることは少ないですが、感染すると数週間も症状が続きます。A型ウイルスはヒトだけでなく、ブタ、トリ、ウマ等の動物にも感染します。A型ウイルスには、HA抗原により分類した15の種類があり、トリ型ウイルスは、ヒトには感染しません。中国南部では、ヒト、ブタ、トリが同一環境にて生活しているため、ヒト型とトリ型の両ウイルスに同時感染したブタの体内でインフルエンザウイルスの遺伝子交換がおこる可能性があり、新しいヒト型ウイルスが出現しやすい環境にあります。また、インフルエンザウイルスは単独でも小さな変異を起こしやすく、同じ型のウイルスでも以前のワクチンが効かない原因となっています。

◎近年のインフルエンザの特徴
 近年流行しているインフルエンザはA香港型とAソ連型です。インフルエンザウイルスに感染すると咽頭痛、筋肉痛、関節痛、発熱、悪寒、咳、鼻水等の症状が出現します。ただ、咽頭所見は、溶連菌感染症や、アデノウイルス感染症ほど強くありません。小児では一旦解熱後再上昇し、2峰性の熱型をとることが、しばしばあります。老人では肺炎を、小児では脳症を起こすことがあり、時に致死的ともなります。1997年よりしばしばH5N1型というトリ型のインフルエンザがトリの間で流行し、一部は人間にも感染しています。その中には、強毒性のものもあり、ヒト型に変異してパンデミックを」起こすのではないかと危惧されています。また、2009年には豚インフルエンザ由来の新型インフルエンザが流行し、パンデミックといわれる大流行になりましたが、幸い病原性が弱かったために、インフルエンザの診療体制の充実している日本では大きな被害は出ませんでした。

◎インフルエンザ感染の予防法
 手洗い、うがいは予防の基本です。ウイルスは、手から進入することはありませんが、ウイルスのついた手で目に触れると、目から感染します。ウイルスの表面は脂質で覆われているため、石鹸を使うと瞬時にウイルスを死滅させることができます。インフルエンザウイルスは、粘膜に接着後、20〜30分というきわめて短時間で粘膜内に進入しますので、うがいの効果は低いと考えられていますが、ある程度の予防にはなります。ただし、消毒剤を使用したうがいは、感染防御作用をもつ常在細菌も減少させるので、1日に5〜6回以内としたほうがよいでしょう。ウイルスは、咳やくしゃみ等により水滴と一緒に飛び出して伝染します。地面に落下すると感染性を失いますが、それまでに水分が蒸発して乾燥すると、空気中を飛び続けます。湿度が高いと落下の率が上がり、感染力が減少しますので、室内の加湿を心がけましょう。気道が乾燥すると、気道内の病原菌を排出する線毛の動きが低下し、感染をおこしやすくなりますので、その意味でも、湿度を上げることが重要です。また、統計上絶対湿度が5g/m3以下になると流行が始まることが知られています。体温の低下も、線毛運動の低下を招きますので、体を冷やさないようにしましょう。
 インフルエンザウイルスの予防の要は、ワクチン接種です。しかし、日本ではインフルエンザの予防接種が任意となってからワクチン生産量が激減しました。一時期数十万人分まで下がっていた生産能力でしたが、ワクチンの必要が再認識され、現在は数千万人分生産の生産能力に回復しました。インフルエンザワクチンは、アレルギー原となるゼラチンを取り除くなど、品質面では非常によくできており、副作用はほとんどありません。(以前に使われていた、全粒子不活化ワクチンは、発熱等の副作用がありました。)日本では、これまで2回の予防接種が推奨されてきましたが、大人は、1回と2回の接種で、免疫力にほとんど差がないデータがあることから、1回接種でもよいということになりました。(大人の場合、過去にインフルエンザに感染しているため、1回の予防注射で十分免疫がつくと考えられます。)小児は、原則2回接種となります。これまで全額自費負担であった費用が、2001年12月より、老人に限り一部補助されることになりました。


◎インフルエンザの診断
 感冒様症状に加え、高熱、筋肉痛などの症状があれば、インフルエンザと診断をしますが、近年抗原抗体反応を利用した迅速診断キットが健康保険で使えるようになりました。この検査は、インフルエンザウイルスの核蛋白を酵素抗体法で同定する検査キットです。初期の製品はA型の検出しかできませんでしたが、最近の製品はA型、B型ともに検出可能です。また、操作も簡便になり、イムノクロマトグラフィー法は薬液と検体の中にテストストリップを立てるだけでよいので、忙しい外来でも検査可能となりました。

◎インフルエンザに感染したとき
 インフルエンザに感染したときは、安静にし十分な睡眠をとることが重要です。インフルエンザウイルスは、高温と紫外線に弱いため、夏には流行しません。インフルエンザウイルスが高温下で増殖力が弱いことから、むやみに熱を下げるのはよくないと言われていますが、極端な発熱は体力の消耗が著しく、食欲も低下するため、適度に解熱剤を使用することも必要です。インフルエンザに感染すると、細菌感染に対する抵抗力が弱くなり、肺炎等の重篤な合併症を起こしやすくなります。抗生物質は、インフルエンザウイルスそのものには効きませんが、様々な細菌感染の合併をおさえることができます。また、ブドウ球菌等の細菌は、プロテアーゼという酵素によって、インフルエンザウイルスを感染しやすい状態にします。このことから、抗生物質の投与は、インフルエンザウイルスの感染防止にも役立つと言われています。インフルエンザに罹患したときの通学に関して、学校保健安全法で決められています。2012年4月より改正され、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」出席停止とされました。ただし、幼児に関しては、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後3日を経過するまで」出席停止とされました。

◎インフルエンザに対する薬剤
 現行のワクチンは製造に手間がかかるため、生産量の面から十分に普及する期待が薄いのですが、免疫力と生産性に優れたDNAワクチン等の新しいワクチンが開発されつつあります。抗ウイルス剤としてアマンタジン(商品名シンメトレル)があり、発病48時間以内に服用するとA型インフルエンザの症状を軽減させることができます。さらに、ノイラミニダーゼ阻害剤というA型、B型両者に効く薬剤が保険適用で使用できるようになりました。吸入薬のザナミビル(商品名リレンザ)と経口薬のオセルタミビル(商品名タミフル)があり、海外の使用等にて優れた効果が実証されています。タミフル服用者の一部に、異常行動が見られ、薬剤との関連が議論されています。もともと、インフルエンザという疾患そのものが異常行動を起こすことがある疾患であり、因果関係を証明するのは難しいことです。現在は、結論出ていないので、念のため十代の若者は服用を控えることが一般的です。(ただし、強毒型の新型インフルエンザが出たときなどは、リスクとベネフィットの関係から年齢に関係なく服用することになるでしょう。)

また、新しい薬剤として点滴薬のペラミビル(商品名ラビアクタ)と吸入薬のラニナビル(商品名イナビル)があり、いずれも一回の投与で治療が行われることから、使いやすさの点で新しい治療薬として大いに期待されます。

京都市中京区 内科皮膚科 西村医院
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