片頭痛

 片頭痛は、頭が脈打つように痛む頭痛です。「偏頭痛」と書かれることがありますが、正しくは「片頭痛」です。通常は、左右いずれかの片側ですが、時に両側のものもあります。頭痛は、数時間から数日持続し、仕事ができなくなることがままあります。片頭痛は起こる数日前に、予兆と言われる倦怠感、眠気、精神的不安定を起こすことがあります。また、頭痛発作の直前に閃輝性暗点と呼ばれる物が見えることがあります。これは、視野の中心に歯車のようなギザギザした丸い物が現れ、それが大きくなって、視野いっぱいに広がり、やがて視野からはみ出して消えてゆく物です。この直後に頭痛が始まります。発作の始まりは、突然ではなく、徐々に強くなって行く感じです。また、頭痛の随伴症状として、涙が出たり、鼻水が出たりすることがあります。吐き気、嘔吐、光過敏は、多くの例で認められます。
 片頭痛は、若い女性に多く、特に生理の直前や、生理中に多くおこります。
逆に、妊娠中は少ないようです。誘因としては、アルコールが重要ですが、それ以外にも、チョコレート、チーズ、ナッツ等の食品の摂取が言われています。(これらの食品摂取とは無関係というデータもあります。)
 頭痛発作の治療薬としては、「セロトニン受容体アゴニスト」呼ばれる薬剤を使います。この種の薬剤として現在使用できるのは、スマトリプタン(商品名:イミグラン)、ゾルミトリプタン(商品名:ゾーミッグ)、エレトリプタン(商品名:レルパックス)、リザトリプタン(商品名:マクサルト)、ナラトリプタン(商品名:アマージ)です。イミグランには注射薬と経口薬があり、ゾーミッグとレルパックスは経口薬があります。狭心症のある人は、使うことはできません。高血圧症の人も、避けた方が安全ですが、使うこともあります。以前よく使われた、エルゴタミン製剤(商品名:カフェルゴット)は、前兆期に服用すれば効果がありますが、その時期を逃すと、効果は余り期待できません。この薬もやはり、狭心症の人には使えません。痛みの治療一般によく使われる、消炎鎮痛剤は、ある程度効果があります。片頭痛の予防薬として、「カルシウム拮抗剤」と「β遮断剤」と言われる種類のものがあります。前者は、塩酸ロメリジン(商品名:ミグシス)、後者はプロプラノロール(商品名:インデラール)等があります。但し、リザトリプタンとプロプラノロールは併用禁忌ですので、注意が必要です。また、抗てんかん薬であるパルプロ酸ナトリウム(商品名:デバケンR)も予防薬として認められるようになりました。

 片頭痛以外の頭痛には、以下のものがあります。
緊張型頭痛:頭を締め付けられるような頭痛で、最も多いタイプです。パソコンや、書き物のように肩や首の筋肉を常に緊張させた状態を続けると起こりやすくなります。
群発頭痛:片方の眼の奥が毎日決まった時間に繰り返し起こる頭痛です。レム睡眠(特に第1レム睡眠)に多く、寝付いてから1時間半ほどして起こることが多いようです。持続時間は1〜2時間以内で片頭痛より短いですが、痛みの程度ははるかに強く、目をえぐられるような痛みと表現されます。眼の充血や涙を伴います。ホルネル症候群と言って、縮瞳と眼瞼下垂が見られることもあります。視力は保たれます。(視力が低下したときは、緑内障の可能性があります。)
男性に多いことが、片頭痛と反対です。治療薬として、片頭痛と同様に、「セロトニン受容体アゴニスト」が使われます。また、100%酸素を大量に吸入すると頭痛が改善することから、寝室に酸素ボンベをおいておくこともあります。
三叉神経痛:顔の片側が、数秒程度(数分のこともある)痛む頭痛です。最も、持続時間の短い頭痛ですが、「電撃痛」「焼けた針で刺されるよう」と表現されるように、痛みの程度は最も強いと言われています。痛みは、食事、会話、洗顔、歯磨き等で誘発され、トリガーゾーンと言われる部分より、広がってゆきます。この頭痛は、三叉神経が血管に圧迫されることによることが、原因とわかりました。
薬剤誘発性頭痛:頭痛を取るために飲んだ、鎮痛剤によりおこる頭痛です。鎮痛薬を長期に連用していると、おこることがあります。中枢性の痛覚抑制系に働いている、セロトニンという物質が消耗するためと言われています。治療は、鎮痛剤をやめることですが、患者さんは、鎮痛剤への依存が強く、現実には、なかなか難しいことが多いようです。
くも膜下出血:突然におこる、激しい頭痛で、致死率の高い極めて重篤な病気です。す。「今までに経験したことのない激しい頭痛」と表現されます。意識障害を伴うこともあります。脳の表面の血管にできた動脈瘤というこぶが破れることが原因です。最近は、脳ドック等で、無症状の人に動脈瘤がしばしば発見され、その処置に迷うことがあります。なかなか、結論が出せないのは、放っておくとどれくらいの率で破裂するかということに、定説がないことによります。最近、海外の有名な医学雑誌に、これまで言われているほど破裂の頻度は高くないと言う論文が出て、話題となりました。動脈瘤の処置は、手術のみではなく、カテーテルを使った処置もあります。



片頭痛の専門的説明

片頭痛発生の機序

◎血管説 vascular theory
 Wolffらが提唱したもの。脳血管が収縮して虚血により前兆を生じ、その後の血管拡張期に頭痛を来すという説である。収縮には、セロトニンserotonin(5-hydroxytryptamine;5-HT)が関わり、発作時に血管内へ放出されたセロトニンが血管を収縮させ、その後キニンやヒスタニンを遊離させて血管拡張や発痛作用を来す。単純で、ある意味では明解な説であるが、その後の脳血流測定によって、血管拡張と血流増加は頭痛開始よりも後に生じるため、血管拡張を頭痛の原因とすることに矛盾が生じてしまった。
また、発作の引き金と考えられる血小板からのセロトニン放出は、血管運動を引き起こすほど多くなく、一方、この量に比べて発作時の5セロトニン代謝産物の尿中排泄量が多いということも報告されており、説明のできない部分も多い。現在では、古典的な考えと言える。

◎神経説 neuronal theory
 1981年Olesenらが提唱した説。片頭痛発作時には、ます脳機能障害または、脳代謝の低下が後頭葉を中心に起こり、それが前方に広がるのに付随して、二次的に脳血流低下がおこるというもの。血管説では、血流の異常が片頭痛の原因となるが、この説では脳代謝低下による結果ということになる。彼は、前兆を伴う片頭痛の患者でXe動脈内注入を行い、片頭痛発作期に後頭葉より約2〜3o/分の速さで 前方に血流低下領域が広がることを確かめた。彼らはこの現象をspreading oligemiaとよんだ。
先に述べたように、頭痛と血管の拡張には時間的なずれがあり、これを証明したのが、Olesenである。すなわち、auraの時期にhypoperfusionが生じ、頭痛期が始まって約1時間後に次第にhyperperfusionに移行し、頭痛が消失した後数時間は、このhyperperfusionが続く。
 しかし、その後の研究で、前兆期の脳酸素消費量は脳血流量の減少にもかかわらず不変であるという結果が出た。そのことから、前兆期の脳血流低下が脳代謝の二次的変化ではなく、一次的に生じている可能性があり、Olesenの説明通りではないような雲行きである。

◎三叉神経血管説 trigeminovascular theory
 片頭痛の発生機序として、現在最も有力な説である。
硬膜の血管には、三叉神経説由来のunmyelinated C fiberが分布しており、三叉神経を電気的あるいは化学的に刺激した際、血管作動性のニューロペプチドであるsubstance p (SP),neurokinin A(NKA), calcitonin gene-related peptide(CGRP)などが遊離され、硬膜の血管に神経原性炎症neurogenic inflammationが生じる。三叉神経血管説では、硬膜の血管周囲に存在する三叉神経の軸索になんらかの刺激が作用し血管作動性のニューロペプチドが遊離され、血管拡張や血漿蛋白の漏出および肥満細胞の脱顆粒がおこり、神経原性炎症が生じる。これにより三叉神経では順行性と逆行性の伝導が生じる。順行性伝導は三叉神経核に至り、c-fosの産生により悪心や嘔吐を引き起こし、さらに視床、大脳皮質に伝わり痛みをおこす。一方逆行性伝導は更に末梢の三叉神経で血管作動性のニューロペプチドの遊離を助長するという説である。提唱者であるMoskowitsは、この不明の刺激を前兆期の大脳皮質のspreading depressionと考えており、三叉神経血管説はvascular theoryとneuronal theoryを融合させたものと言える。


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