◎ノロウイルスによる胃腸炎について
 毎年11月から翌年の2月にかけて、ノロウイルスによる胃腸炎が流行します。症状は、下痢と嘔吐です。ノロウイルスは、プラス一本鎖RNAを遺伝子として持ち、エンベロープを持たない直径30~38nmの小型球形ウイルスです。ノロウイルスは、小腸の前半部である空腸の上皮細胞に感染し、繊毛を萎縮させ、上皮細胞を脱落させます。胃や直腸には病変は起こしません。体内にノロウイルスが入ってくると、12〜48時間後に発症します。以前は、生牡蠣を中心とした魚介類よりの感染が主流でしたが、2006年末の大流行以降は、ヒトからヒトへの感染が主流となっています。なお、欧米ではレタスやサラダからの感染が多いと言われています。

◎ノロウイルスの感染予防
 ノロウイルスは、感染すると、便とともに排泄され、治癒しても、一週間以上の期間、便より排泄され、長期にわたって感染源となります。便→手→口という順にウイルスが移動して感染を起こしますので、このような感染の仕方を糞口感染と呼びます。患者さんが接触した様々な物を介して他者に感染させますが、その中でもトイレのドアノブを介しての感染には特に注意が必要です。家族内や職場内での患者から二次感染を防ぐ基本は、手洗いです。患者さんはもちろんですが、周囲の方も必要です。エタノールは、ノロウイルスには無効です。石鹸は、ノロウイルスを失活させる力はありませんが、洗浄効果があるため有用です。ノロウイルスは低濃度の塩素に耐性ですので、水道水では失活しません。ノロウイルスは、熱にも比較的耐性で、失活させるには85℃1分以上の加熱が必要です。家族内感染を防ぐため、感染者の入浴は最後にした方がよいでしょう。食品を扱う職場で仕事をしている方は、不特定多数の方への感染を防ぐため、一時的に食品に接触しない業務に変更するか、休職するか、何らかの感染対策が必要です。

◎ノロウイルスの汚染物の処理
 室内が、患者の吐物や糞便で汚染された場合は、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO:塩素濃度200ppm)で消毒します。汚染物を処理する際は、マスクと手袋を着用し、場合によってはガウンやエプロンの着用が勧められます。汚染されたものを棄てるときは、ビニール袋に入れ、さらに次亜塩素酸ナトリウムを入れることが望まれます。なお、次亜塩素酸ナトリウムは、金属腐食性があるため、金属類に使用した場合は、消毒後に薬剤を拭き取ることが必要です。また、次亜塩素酸ナトリウムは一部の洗剤と混ぜると塩素ガスを発生して中毒を起こすことがありますので、注意が必要です。ノロウイルスは、乾燥した条件下でも室温であれば1ヵ月程度生存しますので、カーペットが吐物等で汚染された場合、消毒をしないと長期にわたって感染源となります。

◎ノロウイルスの診断
 インフルエンザ同様、ノロウイルス感染も診療所で迅速診断ができるようになりました。便をごく少量採取するだけで、抗原抗体反応を利用して、ノロウイルスの感染を診断できます。感度80%以上、特異度90%以上という性能を示しますので、下痢をしている方がノロウイルスによるものかどうかを知るには大変有用なツールです。しかし、抗原の検出ですので感度は高くなく、微量のノロウイルスを検出するには、専門の検査所にて、RT-PCRによる遺伝子検出を行うことが必要です。抗原抗体反応を使った迅速診断キットは、3歳未満の方、65歳以上の方、抵抗力の弱い疾患を持つ方等には健康保険が適応されますが、それ以外の方は、3000円程度の費用がかかります。遺伝子検出検査は保険適応外であり、2万円弱の費用がかかります。

◎ノロウイルスによる胃腸炎の治療
 ノロウイルスに有効な治療薬はありませんので、スポーツ飲料水や専用の補液水による、体液の補充が主たる治療となります。嘔吐が強くて、十分な経口補液ができないときは、経静脈的に補液を行います。ノロウイルス胃腸炎による体のだるさは、大部分が脱水によるものですので、補液だけでかなり元気になります。ただ、下痢や嘔吐の原因がノロウイルスよるものと断定できないケースも多々あり、実際の診療ではキノロン製剤等の抗菌剤の処方がしばしば行われます。止瀉薬は回復を遅らせることがあるため、勧められません。ノロウイルスには多くの種類があり、genogroupⅠとgenogroupⅡいう2つの遺伝子群に分類され、さらにそれぞれの群には十数個の遺伝子型(genotype)が存在します。一度ノロウイルスに感染すると、遺伝子の似た株に対しては、8週間〜6ヵ月間は免疫力を持ちますが、それ以外のノロウイルスに対しては再度感染し発病する可能性があります。

(主たる参考文献:化学療法の領域 ノロウイルス感染症  2012年  Vol.28 No.11 塩野哲也 吉田正樹  Vol.28 No.12 岡部信彦)



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