◎中国からの大気汚染物質について

 中国では、北京や上海など大都市を含む広い地域で大気汚染が深刻化しており、汚染物質の中でもPM2.5という小さな粒子が、特に問題となっています。中国では工場の燃料や家庭暖房に石炭が多く使われていることが大気汚染物質発生の大きな原因です。また、中国のガソリンは製造コストを抑えた硫黄分の多い劣悪なものが流通しており、他国以上に自動車の排気ガスが大気汚染に与える影響が強いと言われています。(中国では、ガソリンの硫黄含有量の上限値を150ppmとしており、日本やEUの10ppmよりはるかに大きな規制値です。)中国の大気汚染物質は、偏西風にのって日本にも飛来しますので、日本にとっても問題となります。このPM2.5という微小粒子について、環境省は、「微小粒子状物質に係る環境基準」の中で規定しており、「大気中に浮遊する粒子状物質であって、粒径が2.5μmの粒子を50%の割合で分離できる分粒装置を用いて、より粒径の大きい粒子を除去した後に採取される粒子をいう。」としています。PM2.5というのは、2.5μmを越える粒子は全く含まれないということではなく、空気力学径2.5μm以下を半分含むという意味であり、おおざっぱに言えば、平均2.5μmという意味です。測定方法は、「濾過捕集による質量濃度測定方法又はこれと等価な値が得られると認められる自動測定器による方法」としています。環境条件として、「1年平均値が15μg/m3以下であり、かつ1日平均値が35μg/m3以下であること。(H21.9.9告示) 」と規定しています。さらに環境省は2月27日の専門家会合にて、大気中濃度の1日平均値が70μg/m3を超えると予想される場合に、外出自粛などを呼び掛ける暫定指針をまとめました。1日平均値が70μg/m3を超えるかどうかを判断するため、早朝の1時間の値が85μg/m3を超えるかどうかを目安とすることとしました。
 京都市は11カ所でPM2.5を測定しており、近隣では京都市役所が測定地点になっています。同観測所で、本年2月26日に、48.9μg/m3を記録しています。また、同日に福知山では66.4μg/m3の測定値を得ました。なお、中国本土では、1000μg/m3前後の値がこれまでに記録されています。

 工場や自動車から放出される廃棄物は、炭化水素(HC)、硫黄酸化物(SO2)、窒素酸化物(NOx)などのガス状の物質ですが、大気中で光化学反応を受けて揮発性の乏しい極性分子へと変化し、凝集したり既存の粒子にくっついたりして、微小粒子状物質として存在するようになります。大きな粒子は、重力により自然に地表に落下していきますが、これらの微小粒子は雨などによる地表に落下するレインアウトを受けない限り、大気中をさまよい続けます。ただ、レインアウトは大気中の化学物質を除去する有益性はありますが、酸性雨により地上の生物に被害を与えますので、別の問題が生じます。

 中国から飛来する物質として、最近水銀が指摘されています。水銀は、石炭に含まれており、燃焼により飛散します。その多くが、水俣病の原因になっているメチル水銀です。魚介類に含まれる総水銀の暫定規制値は、0.4ppmと定められていますが、琵琶湖のオオナマズは0.865ppmという数値が測定されています。これは、湖の水銀は濃縮されるためであり、他の湖の魚も水銀を多く含んでいると思われます。これらの魚の多くは食用でないため、今すぐに問題となることはありませんが、海洋の直接の汚染や食物連鎖等で、海洋の魚にも汚染が広がる可能性があります。さらに、石炭にはヒ素も含まれており、これについても今後注意が必要です。

 中国からの飛来物質として黄砂も問題です。春になって雪が溶けると地表が露出し、偏西風が強くなることと相まって、黄砂の飛来が増えます。この傾向は、地面が草木に覆われ、降雨量が多くなる初夏まで続きます。黄砂の成分は、石英、長石、雲母などであり、含有元素量はSi、Ca、Al、Fe、K、Mgの順となります。工場地帯の上空を通過すると、硫黄酸化物や窒素酸化物を含むようになります。粒子の大きな黄砂は、飛散距離が短く中国国内で落下しますが、小さな粒子は飛散距離が長く、日本に到達するのは、4μmほどの粒子が主成分です。

 人間の気道は、最初は気管という太い管ですが、次々に二分していき、どんどん細くなっていきます。空気とともに吸入された粒子は、慣性により直進しようとしますが、気流の流れによって進路が曲げられて気道の屈曲に対応していきます。大きな粒子は、直進性が強いため、早い段階で壁にぶつかり、気道壁に捕獲されますが、小さい粒子は気流に乗って奥の方に入っていくことができます。PM2.5は小さいため、気道の奥まで入って肺胞に沈着し、人体に害を与えます。花粉も気道から吸入されますが、直径30μmと大きいため、気道の奥に入らず、上気道にほとんどが吸着されますので、鼻炎が主たる症状となり、下気道症状はあまりおこしません。微小粒子を吸入すると、気管支喘息等の病気や症状の悪化を招く可能性があり、健康な人も新たに呼吸器疾患が発生する可能性もあります。呼吸器疾患だけでなく、循環器疾患や代謝疾患も増加させるという説もあります。吸入を防ぐ簡単な手段として、マスクが考えられますが、PM2.5は粒子が小さいため多くはすり抜けてしまいます。しかし、ある程度の効果はあり無駄ではありません。結核の感染予防等で使われるN95マスクは、0.1〜0.3μmの粒子の吸入を95%以上防止することができ、効果は十分ありますが、目が細かいため空気の抵抗が強く、10分以上装着すると息苦しく感じます。室内では、空気清浄機も有効です。



京都市中京区 内科皮膚科 西村医院