◎花粉症とは

花粉症は、花粉が原因としておこるアレルギー反応で、くしゃみ、鼻水、鼻閉、目のかゆみ、涙目をおこします。花粉は本来無害なもので、吸入しても飲み込んでも全く問題ありません。しかし、生体が誤って有害なものと認識すると、IgE抗体を作り排除しようとします。花粉が吸入されると鼻粘膜にいる肥満細胞の表面にくっついているIgE抗体に結合します。ある程度以上の数が結合すると、肥満細胞の中から、様々なアレルギーを起こす物質が出てきます。この物質によりおこるくしゃみ、鼻水、鼻閉、涙といった症状は、すべて花粉の侵入を防ぐための生体反応と言えますが、本来排除する必要のないものに対する反応なので、不都合な状態です。原因となる植物として、スギ、ヒノキ、マツ、イネ、ブタクサ等があります。その中でも、スギの花粉症は最も強く、2〜3月に日本中で猛威をふるいます。花粉症が大きな問題となってきたのは、ここ10年くらいですが、これは戦後に植林されたスギが成長し、花粉をとばす樹齢になってきたことによります。本来は、建材を大量生産するために植えたスギですが、時代が変わって、需要が激減し、伐採されなくなったことも大きな原因です。また、ジーゼルエンジンの排気ガスによるアレルギー体質化や、道路の舗装により花粉がいつまでも落下できないことも原因です。少数意見ながら寄生虫の減少による易アレルギー化を唱える専門家もいます。スギは、一本の木から10Kgの花粉を飛ばすとも言われ、最盛期には山に雲がかかっていると思わせるほどの光景となります。
 スギの花粉症の飛散量を決める一番の大きな要因は、前年の夏の気候です。一般に、気温が高いと飛散量が多いと言われています。花粉の飛びはじめる時期は、1月の気温に左右され、暖冬では早く厳冬では遅い傾向があります。花粉飛散調査では、1平方センチメートルに1個以上の花粉が2日以上連続して採取される日の初日を飛散開始日といいますが、過敏性の強い人は、それより少ない量で、症状が出現します。

 西日本は、ヒノキが多く植林されていますので、スギ花粉症より1ヶ月ほど遅れて問題になりそうです。ヒノキがスギより遅れて植林されているので、今後ますます飛散量が増えると予想されています。花粉症の患者の割合に関しては、全国レベルでの正確な統計データはありませんが、2割を越えているのでははないかと言われています。特に児童の患者が増加していることが特徴です。

◎花粉症の治療薬

 花粉症の主な治療薬は、3種類あります。
 
★抗アレルギー剤 :花粉症の原因となっているアレルギー反応を押さえる治療薬です。様々な薬剤がありますが、多くの薬剤は肥満細胞から、アレルギーを起こす物質が放出されるのを抑制する作用を持ちます。薬剤が効くまでに2〜3週間かかるため、花粉症シーズンの前からのみはじめることが望ましい薬剤です。
 
★抗ヒスタミン剤 :アレルギー反応がおこると、様々な化学物質が出てきて症状を引き起こしますが、その中心となるのがヒスタミンです。抗ヒスタミン剤は、この物質の働きを押さえるものです。即効性ですので、発作が起こってからでも間に合いますが、比較的短期間しか効果が持続しません。中枢神経の中のヒスタミンの作用も抑制するため眠気をおこすことが一番の欠点ですが、最近の薬剤は、かなり改善されてきました。緑内障や、前立腺肥大のある人は、悪化させることがありますのでご注意下さい。
 
★ステロイド点鼻薬: 直接鼻に投与することができるため、鼻症状に最も有効な治療薬です。抗ヒスタミン剤の効果が薄いといわれる鼻閉に対しても十分な効果を発揮します。本薬剤は、投与後3〜4日めから効果がみられ、中止しても1〜2週間は、効果が持続します。
副作用は、ほとんどありませんが、小児に長期投与すると骨の成長障害が出ることが報告されています。

薬局で販売している多くの点鼻薬には、血管収縮剤が含まれています。血管収縮剤は、直接血管を収縮させるので鼻閉に対して即効性がありますが、連用すると点鼻性鼻炎を生じ、逆に鼻閉を悪化させる可能性もあります。

 毎年花粉症になる方は、流行が始まる数週間前より抗アレルギー剤をあらかじめ服用する予防的治療が勧められています。これにより、発症を防いだり、症状を軽減することができます。(この予防的投与は、あまり効果がないという意見もあります。)花粉症の症状が出てしまった場合は、即効性の抗ヒスタミン剤や、ステロイド点鼻液を併用します。眼症状の強い方は、点眼液を使うこともあります。また、極めて症状の強い人には、「鼻粘膜切除術」という手術を行ったり、レーザー光線や化学薬品を使った手術も行われています。
 一部の医療施設で、ステロイドの筋肉注射を行っているようですが、免疫抑制による重篤な副作用が発生する危険があるため、専門家の間では支持されていません。

 日常生活での工夫も大切です。花粉が、体に触れないようにすることが原則です。マスクの着用はもっともすすめられていますが、メガネ、帽子の着用もある程度効果があると言われています。屋外から帰宅した時は、衣服の花粉を払い落としてから、入室してください。室内に入った花粉は、15分ほどで床に落下しますのでふき取りましょう。

花粉症の専門的な説明

◎花粉症のメカニズム  経気道吸入された抗原は、鼻粘膜の粘液中で溶出し、円柱上皮細胞の間隙を通って、上皮下にはいる。そこで、マクロファージに貪食される。抗原は、マクリファージ内のエンドソームもしくはCPL内でリソソーム酵素により抗原ペプチドに処理された後、HLAクラスUの溝にはまりこみ、ヘルパーT細胞に認識される。この情報をもとに、Bリンパ球が活性化され、クラススイッチを経てIgE抗体を産生する。IgE抗体は、分子量19万、正常人血清中に10〜250ng/ml含まれている。古典的経路による補体活性化能はなく、胎盤通過性もなく、半減期は2〜4日である。生成された、IgEは、血液、鼻汁、気道分泌物に存在するが、一部はマスト細胞や、好塩基球の上の高親和性IgEレセプター(FcεRT)に結合している。再度抗原が入ってくると、これらの細胞上のIgEに抗原が結合し、細胞膜酵素の活性化とCaの細胞内流入等の機序で、様々なケミカルメディエイターが放出される。これらの中には、ヒスタミンのように元々顆粒内にためられていて脱顆粒によって放出するものと、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン等のアラキドン代謝産物のように抗原刺激の後、産生されて放出されるものとがある。これらが、T型過敏反応の簡単な説明であり、花粉症のメカニズムである。しかし、近年喘息を中心として、T型過敏反応が研究され、これだけではないことが明らかにされてきた。上記の即時型反応から6〜8時間後にCD4陽性のT細胞と好酸球の浸潤を中心とした反応が起こり、好酸球から放出されるLTs(ロイコトリエン)・PAF(platelet activating factor)・MBP(major basic protein)・EPO(eosinophil peroxidase)・ECP(eosinophil cationic protein)などが粘膜損傷を引き起こすことがわかってきた。従来より、IgE抗体産生やIgE抗体によるマスト細胞の脱顆粒に対して抑制作用を持たないステロイド薬が、どうしてT型アレルギーに効くのか疑問であったが、この好酸球を中心とした遅延型反応に抑制的に働くことが明らかになった。
 また、近年CD4陽性ヘルパーT細胞がTh1とTh2に分類され、バランスがTh2に傾くと、T型アレルギー反応を起こしやすくなると言われている。Th2細胞の産生するIL-5は、好酸球の分化成熟、活性化に重要な役割をはたす。好酸球の表面にはVLA-4が発現しているが、Th2のサイトカインであるIL-4が、内皮細胞表面にVLA-4のリガンドであるVCAM-1を発現させ、好酸球の浸潤を促していることが知られている。また、IL-4は、IgMからIgEへのクラススイッチを促進する。
 HLAの関連では、スギ花粉症患者の80%は、HLAクラスUであるHLA-DP5が陽性である。HLA-DP5陽性のT細胞は、スギ花粉由来のアレルゲンCri-j1由来のペプチドとDP5分子の複合体に強く反応し、IL-4を産生することにより、B細胞をIgE抗体産生細胞に分化させる。

 花粉症の症状には、くしゃみ、鼻水、鼻づまりがあるが、これらの発生機序は、以下のように考えられている。
 
くしゃみ:くしゃみを誘発する物質はヒスタミンであり、三叉神経終末を刺激し、SP(substance P)およびCGRP(calcitonine gene-related peptide)陽性神経を介して、くしゃみ発作を起こす。
 
水溶性鼻汁:ヒスタミンが知覚神経終末を刺激し、過敏となった鼻粘膜で増幅されて中枢に伝えられ、三叉神経知覚中枢ー上唾液腺核を介する副交感神経反射によって、神経終末から放出されたアセチルコリンが鼻腺に作用した鼻腺由来の分泌物である。逆行性反射により知覚神経終末を興奮させることも関与すると言われている。ヒスタミンやアラキドン酸代謝産物が鼻粘膜血管に直接作用しても血漿漏出をおこし鼻汁成分となるが、わずかなものである。
 
鼻粘膜腫脹:鼻粘膜腫脹は、鼻粘膜容積血管の拡張と血漿漏出による間質浮腫によってもたらされる。これらは、LTs、PGD2、PAF、TXA2、ヒスタミン等の鼻粘膜血管に対する直接作用と考えられている。これらは、興奮刺激後、数分〜1時間でおこり、即時相反応と呼ばれる。抗原刺激を受けた後、6時間以上経過して、約半数の症例で遅延相反応があこる。これは、肥満細胞から放出されたサイトカインにより炎症細胞が集簇し、そこから放出されるサイトカイン等の物質により鼻閉や粘膜上皮の炎症が起こるものである。一般に、即時相では血管拡張の要素が強く、遅延相では浮腫の要素が強いと言われている。
鼻閉に関しては、副交感神経(NO)や軸索反射(SP・CGRP)を介する、平滑筋弛緩や鼻粘膜腫脹は関与が低いと考えられている。
また、慢性化したアレルギー性鼻炎では、炎症性粘膜の肥厚が加わる。


京都市中京区 内科皮膚科 西村医院

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